※死ネタ注意です。
今日は10月31日。様々なモンスターに仮装した人々が「お菓子か悪戯か」という言葉とともに家々を廻る日、つまりハロウィンである。
いつもは誰かがいるオートボットの格納庫も、賑やかなメンバーたちが出掛けてしまっているため、しんと静まり返っていた。
そんないつもとは違う格納庫の隅で、ユウは一人、一心不乱にナイフでかぼちゃをくりぬいていた。
硬いかぼちゃの皮に刃をつき立て、慎重に動かしていく。
三角形の目に当たる部分をくりぬき終え、もう少しで口も完成、といったその時。
「ユウ?」
と後ろから急に声を掛けられ、無意識にユウはびくりと肩を跳ねさせた。その振動で刃がぶれて指先を掠め、ぴり、と小さな痛みが走った。
声の主の方に目を向ければ、目に入ったのは青いカメラアイをカシャカシャと瞬かせているサイドスワイプの姿。
「もう、びっくりしたじゃない…。」
悪い、と軽く謝るサイドスワイプを横目に、手元のかぼちゃに目をやると、ユウはあからさまに肩を落とした。
かぼちゃの口の端は歪に削れ、先ほど切ってしまった指から出た血が付着しているという、なんともホラーチックなビジュアルになってしまっている。
ティッシュで指を押さえながらサイドスワイプを睨むと、こころなしかしゅんとした様子でユウの指にちらちらと視線を送っているので、ユウは睨むのを止めてため息をついた。
「…次からは刃物を持っている人に急に声を掛けちゃダメだよ。」
「気をつける…。ところでユウ、それ何だ?」
ユウは小さく微笑むと、手元のかぼちゃを少し持ち上げて見せた。
「ジャック・オー・ランタンを作っていたのよ。今日はハロウィンでしょ?」
ハロウィン、と聞いてサイドスワイプは少しだけ嫌そうにフェイスパーツを歪めた。
前回のハロウィンでツインズに洒落にならない悪戯をされたことを思い出したのだろうか、とその表情を見てユウは苦笑した。
「……ハロウィン、っていうのもあるけれど…これは、アイアンハイドのために、作っていたの。」
そう、ぽつりというと、サイドスワイプのパーツがギギッという音を発した。
…サイドスワイプが動揺するのも無理はない。
少し前の戦いで、彼の師であったアイアンハイドは、センチネルプライムによって殺されてしまったのだから。
黙ってしまったサイドスワイプに背を向け、ユウは話し続ける。
「ハロウィンって言えば、変装してお菓子をもらいに家を訪ねる楽しいイメージがあるけれど、本当は死者のためのお祭りなの。ジャック・オー・ランタンはハロウィンの日に現世に溢れる悪い魂を遠ざけて、良い魂を家に導き入れる効果があると言われているの。…オプティマスは、トランスフォーマーは死せばオールスパークに還ると言っていたけれど、それでも、わたしなりの弔いをしたかったの。」
そこで一度言葉を切ると、ユウは小さく息を吸った。
「あとは、私自身が、アイアンハイドの死を受け入れて次に進むため。」
次に出した声は、妙に静かだった。
「いまだに、彼の死が受け入れられないの。アイアンハイドはもういないって、頭ではわかっているし、彼を殺したセンチネルを憎く思う気持ち自体はあるのに…いまだに彼がまだ生きているように感じる時があるの。おかしいでしょ?」
そう言って、ユウは自嘲するような笑みを浮かべて笑った。
作りかけのジャック・オー・ランタンを手に取り、中身を覗きこみながら言った。
「こうして、死者として弔うことによって、ちゃんと受け入れられるかな、って思ったの。…ごめんね、こんな話を聞かせちゃって。ほら、サイドスワイプもみんなのところに行っておいで?」
僅かに眉を下げて笑みを浮かべながらそう言ったユウだったが、サイドスワイプの
「いや、俺もここにいる。それが完成するのを見たい。」
という言葉に、そう、と小さく返すと、再びジャック・オー・ランタンを弄り始めた。
とは言っても、あとは蝋燭を入れて火を灯すだけで完成だ。
くり貫いたかぼちゃの中に蝋燭を倒れてしまわないように固定し、ライターを持って格納庫の外に出た。
後ろからサイドスワイプが追いかけてくるタイヤの音を聞きながら、他のジャック・オー・ランタンと少し離れたところに、自分が作ったものを置くと、そっと蝋燭に火をつけた。
蝋燭の光がくり貫いた穴から漏れ、ジャック・オー・ランタン自体がぼんやりとオレンジ色の光を放つ。善良な魂を導くと言われている、温かい色の光。
その光景を見て、ああ、ほんとうにアイアンハイドは逝ってしまったのだな、とそんな思いが胸のうちに広がった。
センチネルの腐食銃でやられたせいで、アイアンハイドの亡骸はおろか、パーツのひとかけらでさえ、戻ってこなかったのだ。何も残さずに逝ってしまったせいで、今もどこかで任務を続けていて、ひょっこりかえってくるのでは、なんて思っていたものが、溶けて消えていった。そんな感じがした。
アイアンハイドは、もういないのだ。
じんわりとそれが胸の底に広がっていったのと同時に、彼の死の知らせを聞いても流れなかった涙が今、始めて、ユウの両頬を伝っていった。