1g
名前はトラックにも引かれてないし神様にも会っていない。
でも頭のどこかで死んだということは理解していた。
平凡で、突出したところといえば少しだけ同年代より勉強ができること。
二度目だって平凡に生きるつもりでいた。自分には主人公になれるほど特別なものがなかったので。
舞台が例のサッカーの皮を被ったデスゲーム漫画だと気づいたのは小学校の帰り道。
とっても見覚えのある下まつげ兄弟がサッカーをしていたからだ。
同じ小学校らしいが彼らを見たのが初めてだったので、少なくとも同じクラスではない。
たとえ席が隣でもよほどなことがない限り干渉することはないだろうなと名前は夕焼け雲を眺めた。
彼等は少なくとも平凡な道を歩けないだろうが、世界という大きな舞台に向けて傾斜のきつい道を進むのだろう。
せいぜい自分のすることは遠くからたまにテレビをつけて応援するくらいだろう。
名前はそう信じていた。
「名前、昨日これ置いていっただろ」
「あ、凛ちゃんごめん。ランニングもあるんだし置いといてくれてよかったのに」
「お前に会うついでだからいいんだよ」
そういってわしゃわしゃと名前の頭を撫でる凛。
未だに何故こうなったのかわからない。
小学生、最後の二年で彼と同じクラスとなり少しだけ交流があった。
中学生二年生で再び同じクラスになる。
ぼうっとしていたら告白が聞こえて、青春だなあ、やっぱりどこでも学生ってのはませてるもんかねえと前をみると
糸師凛が告白をしていた。名前に。
訳が分からず勘違いじゃない?と聞いたところお前がいいとのこと。
よくわからない上に混乱していた名前は断ろうとしたがクラスが
完全お祝いムードで断るに断りきれなかった。
糸師凛、そういうとこな。そう思いながら了承してはや二年。
兄とのいざこざはあったようで、末っ子気質はすっかり息を潜めていたが凛は名前にその話をすることはなかった。
聞かれたくない雰囲気も感じ取っていた名前は何が正解かわからないまま彼と交際を続けている。
「ね、強化合宿頑張ってね。無理しちゃダメだよ」
「わかってる」
8時に会場入り、名前は凛の送り出しのために早起きしていた。
彼のことは好きだけど恋愛感情があるかと聞かれれば謎。でも少なくとも二年分の情はある。
「待ってるから、目一杯楽しんできて」
そう言うと名前は力一杯凛を抱きしめた。
きっと挫折と奇跡が幾度も起こって、それでも凛に輝かしい未来があることを願って。
青い監獄。スマホも没収されているせいで彼の現状はよくわからない。
彼のいない間に生徒会の一員になったり、知らない男の子から告白されたり。ちょっとしたプチハプニングはあったものの、彼に比べれれば平凡な生活だったと思う。
彼がサッカーのために別れたい、新しく好きな人ができたから別れたい、そういうことを口にすれば快く応じるつもりだった。彼は貪欲で、夢を全力で掴める人だったから。だからちょっと、ほんの少しだけ。
オフを貰ったから会おうという彼の言葉に驚きながら、いつもより気合を入れて会いに行った。
考えが甘かったと知るのはその時だった。
「なあ先輩に告白されたって聞いたんだけど」
「え?」
久しぶりに会って一言目がそれ?というかそれどこ情報?そんなことを聞き返すこともできず腕の中に閉じ込められた。
相変わらずとんでもなく長い腕だ。筋肉質でこのままぎゅっといかれると首の骨が折れそう。上の空だったのがバレたのか、凛は少し不機嫌そうな顔で再度尋ねてきた。
「八束が写真送ってきた」
「わあタチが悪い」
八束はクラスの友人である。マドンナ的存在で、ちょっとお茶目ないい子だった。
年季が入っているせいか(ここは笑うところ)、八束は名前によく懐いた。そして凛のことはあまり好きではなさそうだった。親友を取られるからと言っていて嬉しさのあまり口元が緩んだのを思い出す。
きっと驚かせてやろうと送ったものの、連絡が取れないことを知らなかった八束はさぞお怒りだっただろう。
名前に言っても悪さがバレるだけだったから何も言わなかったに違いない。
「コイツと付き合うのか?」
「いや、ないってわかって凛ちゃん聞いてるよね?そもそも彼氏欲しい願望ないし凛ちゃんで十二分間に合ってる」
キョトンとした凛と目が合い、わあ珍しい顔だと微笑んだのも束の間。
ぶっちゅーと、それは長い口づけをされた。
そこそこの付き合いがあるから手もハグも、キスまでなら経験済みだがこんなに軽々しく口づけするような男だったかな?もう少し恥ずかしそうに可愛いキスしてたと思うんだけど。
そう考えていたのがバレたのか、凛は目尻を少し緩めた。
「また青い監獄へ行くことになる。オフのうちにできることしとかねえと」
「何か凛ちゃん色々吹っ切れてない?そんな軽々しい男だっけ」
「お前としかしないし軽々しくはないだろ」
大真面目に返して目一杯抱きしめる凛に名前は遠い目をせざるを得なかった。
う〜ん振られるかなと思ってきたんだけど。好意は減ってないらしい。
どちらかというと捨てられないように必死ってカンジ。凛に至ってはそんなことありえないだろうし、捨てれるとすれば相当な贅沢者だ。
前世で何の徳を積んだんだろう。
そんなことを考えながら名前は放課後デートにお家デート、休みの日にはお出かけの予定が入れられ過ごすことになった。
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