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お昼もとうに過ぎた午後2時のこと。
こりゃあ、今日は郁に会いに行く時間はないかもな、なんて思いながら机に向かっていると、ノックも無しにガチャリとドアが開いた。

「綱吉」
「あ、雲雀さん。おかえりなさい、任務はどうでした?」
「何てことない、簡単なのだったよ」
「はは、まあ雲雀さんですしね。でも珍しいですね、俺の部屋にわざわざ来るなんて。いつも部下に書類持ってこさせたり、あんまり来ないのに」
「それ嫌味?」
「いやいや、ちがくて。……なんか、ありましたか?」

そう尋ねると、雲雀さんがめんどくさそうに書類の束を置いた。

「ディゾノーレファミリー、怪しい動きを最近またしてる」
「ディゾノーレ? またなんで今更?」
「さあ、知らないよ。今回の任務先でね、コソコソと取引してるのを見かけた。顔を見たことがあったから、パーティーか何かで見かけたんだと思う。だとしたら、それなりの幹部クラスだ」
「なるほど。わざわざ幹部クラスが出向くなら、一般人に薬を売りつけるとかそんな小さいのじゃないでしょうね」

ぱらぱらと書類捲って見ると、薬の密売・密輸、人身売買、人体実験、出るわ出るわ闇取引の数々。こりゃあ、もう見逃せないとこまで来てるな。まあそもそも、見逃すつもりなんてないけども。

「でもなんでほんと、また急に動き出したんだ? 昔、一度口でではあるけど叩きのめしてからは大人しかったのに」

過去を見ればキリがないが、俺がボンゴレを10代目に就任してそのことがあって以来はめっきり事案がない。その間3年くらい。懲りたのだろうと思って緩んでいたからここまでまたぶり返してることに気付かなかったわけだけど、それにしても動き方が妙だ。徐々に規模がでかくなってる。
書類を片手に、顎に手をあて考えていると、雲雀さんが厳しい声で言った。

「君、最近親しい人物がいるだろう」
「っえ」
「それも、女の」

ドクンと心臓が鳴る。

「なんで、そのこと知ってるんですか」

暫く本部を開けていた、雲雀さんが、どうして知っている。

「噂になっているそうだよ、この世界で。ボンゴレボスの沢田綱吉が囲っている女がいる、って」

ガタン!

「なんで……っ! 尾行はなかった、変な視線もないのを確認してたのに!」
「多分、一般人が手引きをしている。殺気も何もないから気付かないんだろう」

報酬は恐らく薬だ。そして狙いは、ボンゴレボスの弱みを握ること。
そう言った雲雀さんの声に、目の前が真っ白になる。俺の、せいだ。

「項垂れている場合? いつ動くのかわからないんだよ、彼らは」
「っ……そうですね」
「ひょっとして、まだ伝えてないのかい。君がボンゴレというマフィアのトップであること」
「……マフィアってことすら、言ってませんから」

呆れた、と雲雀さんは言う。まったくその通りだ。
身分も明かさず、属している世界も明かさず、それがどんなに危ない世界か、自分が一番よく知っているはずなのに。自分に何が起こってるのかも原因もわからないままに、郁を危険にさらしている。その原因は俺なんだ。

「それで、どうするの。身分を隠すことを優先するの」
「まさか」

まさか、そんなわけがない。嫌われてしまうかもしれないって俺の不安のために、彼女を危険にさらすなんてそんなことできるわけがない。

「ちょっと出てきます。よければ今ここにいる守護者に通達してください、1人身柄を保護すると」

絶対に守ってみせる。