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「ごめん、急にこんなことになって」
「ううん、私は別にいいんだけど……綱吉の顔色が悪いことの方が気になる」

大丈夫なの、と聞くと「体調が悪いわけではないから、大丈夫」と笑ってくれた。でもやっぱりその笑みはどこか無理をしている。

それは1時間前。
神妙なかおをして店に現れた綱吉は挨拶もままならないまま、私に頭を下げて「何も言わずについてきてほしい」と言った。多分いつもなら、そんな言葉をきいたマウロさんは「若いねえ」とからかうのだが、綱吉の真剣な面持ちにそんなことはなかった。私は一人暮らしだし、家を空けることは全然構わない。気になるのはお店だったから、そこは綱吉がマウロさんと直接話してOKをもらったようだった。

「ご迷惑をおかけしてすみません。できるだけ早く彼女が仕事に戻れるようにします。ただ、まだ具体的に日付は言い切れません」

すみません、と何度も繰り返す綱吉の悲痛な面持ちにマウロさんも私も何も言えなかった。そうして必要なものをとりに私の家に戻っているのが今。

「お待たせしました」
「荷物、それだけで大丈夫? 俺持つから量気にしなくていいよ?」
「ううん、大丈夫。最低限の着替えは入ってるから。ちょっと洗濯だけさせてもらうことにはなると思うけど」

へへ、と笑う私に、綱吉が弱々しく笑った。もうほんと、らしくないなあ。そっと手を伸ばして、見上げながら綱吉の頬に触れる。

「大丈夫だよ、綱吉。まだよくわかんないけど、私は大丈夫。ちょっとね、ワクワクしてるくらい。友達のうちにお泊りなんて、もう何年もしてないから」
「郁……」
「聞いて良ければ後で話を聞くよ。だから1人で抱え込まないで。ね?」

笑みを浮かべる私に、綱吉がありがとうと呟いた。










荷物をまとめた私が綱吉に連れられてきた場所。やっぱり、でかい。
まあ、あのきらびやかなパーティーにお呼ばれしてて、毎日花を買っていっても飾るところがあるっていうくらいだから、大きいんだろうなとは思ってたけど、いやそれにしてもこれは寧ろ城レベルでは?
ぽかーんと口を開けたままの私に、綱吉がくすくすと笑って荷物を持ってくれた。紳士だ。
門は監視カメラでのチェックと音声認証、網膜認証。玄関では指紋認証があって、中からオッケーが出て漸く開いた。え、厳重すぎない? いつもはここまで厳しくしないんだけどね、と言った綱吉に、はあ、と空返事を返すのが精一杯。お屋敷の内装もシンプルだけどきらびやかで、とてもセンスのいい感じだった。町娘が入り込むようなところではない、ほんとに。なんかもうちょっとマシな格好してくればよかった。

「郁、この部屋にね、俺の仲間が集まってる」
「仲間……?」
「任務とかで出てる人はいないけど、いる分は全員。今から、みんなに郁を紹介する。個性が強いやつらだけど、とても頼りになるから……」
「?、綱吉?」
「ちがう、こんなことを言いたいんじゃない」

優しげに目を細めた綱吉が優しく私の手をとる。首を傾げる私に、何のためらいもなくそのまま綱吉の柔らかい唇が手の甲に触れた。

「なっ、な」
「君はどんなことがあっても守るから」

なんという殺し文句。

「っ、私も! 私も、守るよ、綱吉のこと」
「!、それは頼もしいや。ーーそれじゃ、入るよ」
「っはい!」

不思議と不安はなかった。