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「郁、バジルとってくれ」
「乾燥バジルでいいですか?」
「おー、サンキュー」
「こっちのスープもう完成です」
「お、こっちももう終わる。いい頃合いだな、盛るか」
「はい。ここにお皿置いておきますね」
「助かる」

「もうすっかり郁はうちの家政婦みたいになっちゃったねえ」
「そうだな、実際手際がよくてかなり助かってるってメイドも言ってたぞ」
「え! 本当ですか!」

郁が屋敷にきて1週間。長かったようであっという間だったその期間の内に、郁はとてもうちに馴染んでいる。
今だって、俺とリボーンの会話を聞いた郁が、料理の乗った皿を俺達の前に置きながら、わーいと喜んでいる。いやメイドからも喜ばれてるって一体ここの仕事どんだけやってんだ。確かに掃除洗濯料理まで一通りこなせると言ってはいたけど、その要領の良さは少し人並外れているといってもいいのかもしれない。

「何にでも一生懸命になれるのが郁のいいところだからね」
「!、ありがとう!」

へへ、と笑いながらキッチンに戻っていく後ろ姿を見て、多分俺は顔が緩みきっていることだろう。案の定、リボーンから「締まりのねえ顔だな」と言われた。

「うるさいリボーン」
「ホントのことだろ。そんなにアイツがいいって言うならさっさと正式に迎えりゃいいじゃねえか」
「本当だよね」

なんでこんなところでその話を持ち出すんだとリボーンに向こうとしたところで、後ろから入ってきた声。振り向くと、呆れているような顔の雲雀さんが立っていた。雲雀さんおはようございます、と誤魔化すように笑ってみるけど効くわけなくて、はあ、とこれみよがしに溜息を吐いて俺の隣の席に座る。

「1週間経つけど、彼女の周りに何の影もない。まあここにいるからではあるけど。ただ彼女をここに閉じ込めて君はそれを見て満足してるだけだ」
「……」
「半端な気持ちだったらやめることだね。君が彼女を気にかければかけるほど、彼女への関心は強まる」
「そうだ。敵だけじゃねえ、同盟ファミリーの令嬢共もざわつき始めてるって聞くぞ。やたらと縁談を進めたがる奴がいるのはそのせいもある」

2人の話を聞きながら、そうだね、と相槌を打つことしか出来ない。相槌を打ちながら、郁を眺めることしか出来ない。我ながら、なんて情けない。軽く唇を噛んで下を向く。

「それでも、」
「ご心配には及びません」

俺の言葉を遮った凛とした声にパッと前を向いた。大きなサラダボウルを持った郁が、困ったように、少し切なげに、俺を安心させるように笑っていた。

「私は、綱吉の枷になるつもりはありません。今はお世話になっているけれど、いずれ必ず出ていきます。邪魔だと言われるのならば今すぐにでも」
「っそんなこと、」
「大丈夫だよ、綱吉。例え出ていっても、私はまた来る。綱吉の味方に、なりに来る」

そう言い切った郁に、ガタンと立ち上がった。持っていたサラダボウルをテーブルに置かせて腕を引っ張り、その場を去る。後ろで座ったままのリボーンと雲雀さんが「ありゃ厄介なのに捕まったな」「ほんとにね」と会話をしているのが聞こえた。