02

めんどくせーとこに遭遇した。
任務の帰り、人気の少ない裏路地を歩いていると、ばたばたと走り回る三つの足音と、男達の怒鳴り声が耳に入ってきた。ボンゴレがおさめる地域といっても、どうしても治安の悪い部分は出てくる。悪いというレベルがピンキリだとしても、悪ガキや浮浪者にとっては何かを見つけようならどこまででも追いかけまわすだろう。
知ったことではない。
迷い込む方が馬鹿なんだ。
誰かが追われようが殺されようが知ったことではない。目の前にいるならまだしも、音のする方に行ってまで人助けなんてむず痒いことはしない。そう思っていた。

「マジかぁ……」

少し先、ほぼほぼ目の前といっていいほどの場所に女が飛び出して来て、転んだ。あまりの勢いに転がって壁に背中を打ち付けて止まった、という方が正しい。
そしてその後に追い付いてきた、あからさまな悪ガキども。下卑た笑みを顔に浮かべて、見ているだけで胸糞悪い。気が向いた、ということにしよう。知らない奴を助けるほど俺は優しくない。ただなんとなく、悪ガキ共に帰りを邪魔された苛立ちをぶつけることにしよう。

「う゛ぉ゛お゛い。お前ら、何枚におろしてほしい?」

任務のせいで、拭ってはいるものの既に血で濡れていた剣を構えると、ガキ共は狼狽えた。

呆気ねえ。









***








目が覚めると、見知らぬ天井だった。何が起こったか忘れていて、身体を起こそうとしたところで背中に激痛が走って、思い出した。
そうだ、私、追われてた。追われて、にげて、転んで、……あれ? 男達が側まで来たのは確か、覚えてる。その後私は気を失ってしまって、終わりだと思ったんだけど、捕まってないし、死んでない。打ち付けた背中や、擦りむいた足は痛いけど、他に変なところは無さそうだ。

「う゛ぉ゛お゛い、目が覚めたかぁ」

ドアが開くと同時に響いた聞きなれない声に、びくりと肩が震える。入ってきたのは、真っ白い髪を伸ばした、綺麗な男の人だった。美形だ。

「なんだぁ? まだ夢の中かぁ?」

ひらひらと目の前で手を振られて、ハッと我に返る。おずおずと男の人を見上げると、なんとも言えない顔で私を見下ろしていた。

「あの、助けてくださったんですか」
「助けたんじゃねえ、目障りだった奴らを潰しただけだぁ」

目障りだった奴ら、というのは多分あの男2人のことだろう。フン、と鼻を鳴らしながら、近くにあった椅子に足を組んで腰掛けたその人が探るように私を見ている。ひとまず。

「助けて頂いて、ありがとうございます」
「ちげえっつってんだろぉ」
「あなたには、そうかもしれませんが、私は助けてもらったので……。やっぱり、ありがとうございます」

軋む背中を堪えながら、ぺこりと頭を下げる。ちらと彼を見ると、微妙な面持ちだ。

「にしてもお前ぇ、こっちの人間じゃ無さそうだがぁ、全くの手ぶらであの辺りをぶらつくなんて馬鹿のすることだぞぉ゛」
「あ……それには、かくかくしかじか……ありまして」

どうやら悪い人ではないらしい。なんて、助けてもらった時点で悪い人では無いんだろうけど。話を聞いてくれる様子の彼に、事の経緯を話した。久しぶりにイタリアに来たこと、置き引きにあったこと、追っていたらあそこに迷い込んで挙句柄の悪い人達に追われていたこと。聞いた最後にその人は「とんだアホだなぁ」と言った。ごもっとも。

「こっちにアテはあんのかぁ?」
「一応、あるんですけど。びっくりさせようと思って黙って来たんです。そしたらこのザマで」
「とことんアホだな」

ぐうの音も出ない。ちゃんと迎えに来てもらえばよかった。
ご迷惑おかけしてすみません、としょんぼりする私に、その人は慌てながら「気にすんなぁ」と言ってくれた。いい人だ。

「アテへの行き方は分かってんのかぁ?」
「あ、はい。場所も分かってます」
「なら身体が動けるようになったら出て行けぇ。入れといて何だが、ここはあんまり長居するとこじゃねぇからなぁ」

椅子から腰を上げ、ドアへ向かう白い人。

「あ、はい。わかりました」
「じゃあなぁ」
「あっまっ、待って! お名前! 教えてください!」
「……」
「あっ、私は白樺郁といいます!」
「……スペルビ・スクアーロだぁ」
「スペルビさん」
「……」
「ありがとうございます! このご恩は必ずいつかお返しします!」
「!、ま、期待せずに待っといてやるぜぇ」

ニッと口角を上げて去って行ったスペルビさん。思わず、かっこいい、と呟いてしまったのは内緒。