03
まだまだ本調子ではないけれども、長居する訳には行かない。本当はお礼をしたいところだけど、今の私では何か買うことも出来ない。スペルビさんに言われた通り、早々にお暇させて頂いてまた後日来よう。なんて思って、ゆるゆると立ち上がり、去り際スペルビさんから頂いた簡易的な屋敷内の地図を見ながら玄関へ向かう。私の寝ていた部屋自体、とても綺麗で立派でお金持ちなんだろうなあと思っていたけれど、部屋から出てみると本当に大きかった。綱吉達の屋敷と張るんじゃなかろうか。むくむくと膨れ上がる探究心をおさえながら、誰とも会うことなく大きな玄関まで辿り着いた。勝手に出ていいのかと思ったけれど、スペルビさんからお許しは頂いてるし。おじゃましました、とだけ呟いて、ドアを開こうと伸ばした手が、ドアノブを掴めずに落ちる。ギギ、と重い音を響かせながら開いた玄関の向こう、さらりとした金髪とその上に乗ったティアラを輝かせた男の人がそこにいた。
「あれ? なに、お前」
「え、あれ?」
「ししっ、不法侵入者? どっかのファミリーのスパイ?」
「えっいや」
「何でもいーや、とりあえず殺るし」
え、と思ったのも束の間。スラッとどこから取り出したのか分からないナイフの束を構えている。なんだか、こっちに来てからこういうのばかりじゃない?
お暇することは叶わず、その場からとりあえず離れようと走り出す。うしし、と愉快そうに笑った金髪さんがひょいひょいとナイフを投げながら追ってきていて、避けられるものでもないし、身体のあちこちを掠っては痛みに顔を歪めた。
「スペルビさん! スペルビさーん!」
こうなったら自棄だ。人の家で失礼だと分かっているけど、とりあえず声を張り上げる。こんな広い家で届くかもわからない声だけれど、何もしないよりかはマシだ。「ん? スペルビ?」と後ろで金髪さんが言ってると思ったら「う゛ぉ゛お゛い!!」とすぐ横にあったドアが開いた。声は届いたらしい。
「お前何騒いでんだぁ!!」
「すすすすスペルビさん!! ナイフ! ナイフ持った人が!」
「あぁ? ベルじゃねーか」
「なに? スクアーロの知り合いなわけ? ソイツ」
お二人は知り合いなんですね!
瞬時に状況を把握したらしいスペルビさんが、ベルと呼ばれたその人にナイフを下げるように言ってくれた。渋々ながらも下げてくれたベルさん。寿命が縮まった。
「スクアーロが女連れ込んでやんの」
「はぁ? 誤解されるような言い方すんなぁ゛!」
「なんだ、ちがうんだ?」
ふーんと言いながら近付いてくるその人が、「アンタ名前は?」と聞いてきたのでとりあえず答えた。ジロジロと見られて気付いたけれど、そういえば私ウィッグを被ってない。ハッとした時には遅くて、ベルさんが私の髪を掴んでいた。
「キレーな髪してんね」
「あ、ありがとうございます」
褒められたなあとお礼を述べると、ポカンとした表情のその人。いや、といっても目元見えないから分かんないけど。口が開いてるから何となくそうかなと。
暫く呆けていた様子だった口が閉じたと思うとニヤリと笑った。
「なあスクアーロ、今度のパーティーだけどさ」
「あ゛? あ゛ぁ、ボスさんがめんどくせぇって言ってたやつかぁ」
「そそ。あれボスの代わりに行けって言われてんだけど、コイツ連れてっていー?」
「は?」
「え?」
え? 幻聴?
私の手を引っ張りながら、スペルビさんにそう尋ねるベル、さん。え、なんで。
「女が一緒の方が変なのまとわりついて来なくて楽だし、なんつーか、楽しめそうじゃん? こいつ」
「そんなことないと……思いますけど……」
たらたらと冷や汗をかきながら、僅かに抵抗してみるけれど、ティアラを被ってるだけあって唯我独尊なベルさんは全く聞く耳を持ってくれない。縋るようにスペルビさんを見るも困ったように「あー」と言って頭を掻いている。
「確かに、居てくれた方が有難い内容ではあるんだよなぁ゛」
「そ、そうなんですか?」
「うちの、まあ本社のボスみたいなガキ共が主催のパーティーなんだがぁ、簡単な見合いの席も兼ねてるとこはあんだぁ」
「ま、俺らとかそのガキンチョ達はそんな気ないんだけど、しないとしないで周りがうっせーからさ。女連れてったり、女がいるって匂わせたり、馬鹿正直に断ったり様々だけどな」
「はぁ」
それでまあ私を連れて行こうということらしい。着いてくるだけでいいしそしたら返してやるよ、と脅迫まがいの言い方をしてくるベルさん。彼だけだとお断りしてたかもしれないけど、命の恩人であるスペルビさんもお困りだと言うのなら断るにも断れない。パーティーにとりあえずついていくだけでいいのなら、お礼になるのなら、いいかもしれない。良くも悪くも綱吉達に戻ってきてることは伝わっていないし、少しくらい日にちがずれ込んでしまっても、大丈夫だろう。
「私、パーティーとか挨拶とかわかりませんけど……それでいいんですか?」
「構わねえぜぇ。ヴァリアーに近付いてくる奴ら自体早々いねーからなぁ。行って適当に時間潰して帰ってくるだけだぁ」
「甘いもんとか好きならデザートでも食っとけばいーよ」
「それは魅力的ですね」
そんなこんなで、すごく久しぶりで人生2度目のパーティーに参加することになってしまった。