04

「あらまあ! これまた綺麗な髪ねえ!」

私を見たサングラスの男の人が一言目にそう言った。

なんやかや話がまとまったところで、大広間に移動しベルさんのナイフによる切り傷を手持ちの救急用具で手当をする。自分で巻けない腕の部分はスペルビさんに頼んだ。その横でさして悪びれた様子もないベルさんが「わりーねー」と言ってるのは聞いてない振りだ。
大した怪我ではないけれども、やっぱり痛いものは痛くて、しかも軽い感じに謝られても許せるものではないのでしばらくは引っ張ろうと思う。
そんなことをしているとドアが開き、モヒカン?のような少し独特なヘアスタイルにサングラスをかけた男性が入ってきた。

「出たオカマ」
「まっ、なによいきなり失礼ね! それより誰が連れ込んだのよこの子」
「カス鮫」
「スクアーロったら〜! やるわね〜!」
「ちげぇ!!!」

男……性……?
身体をくねくねとさせながら話すその人の言葉は女らしくて、ああ、これが所謂オネェという人かと手を叩いた。お会いしたのは初めてだ。
サングラスのせいで目は見えないけれど、口調とその雰囲気からは怖い人とも思えず、怖い人暫定1位ベルさんから変動無し。

「初めまして〜、あたしルッスーリアっていうの」
「初めまして、白樺郁といいます」
「綺麗な名前ね。ジャポネーゼかしら?」
「あ、はい。そうなんです。困っているところをスペルビさんに助けて頂いて、それで」
「今度のパーティーに連れてくことにしたからよろしく」
「ーーだ、そうです」
「これまた展開が急ねえ」

私もそう思います。
どうやらかなりの常識人らしいルッスーリアさん。ベルさんが彼女(彼?)によろしく、と言ったのは、私の衣装を見繕ってくれって意味らしい。確かに、スペルビさんやベルさんはその辺は得意ではなさそうだけど。あまりにもトントンと話が進みすぎて、でもそれが全くの予想外の方向すぎて、どうしたらいいものか困ってしまう。とりあえず流されてていいものなんだうか。

「そもそもボスには許可もらってるのかしら?」
「パーティーは任されてるぞぉ」
「ちっがうわよ。ここにこの子を置くことをよ!」
「あー、まあいいんじゃね。ボス今いねーし」
「い、いいんでしょうか」
「スクアーロが何とかするっしょ。最初に入れたのコイツだし」
「……」

大丈夫なんですか、という視線をスペルビさんに向けると、まあ何とかなるだろぉと一言だけ返された。若干目が泳いでるように見えたのは気のせいだろうか、目を私と合わせて言ってほしい。

「まあ言っても仕方ないわね」

仕方ないのか。

「郁ちゃんはパーティーとか経験あるの?」
「前に一度だけですが」
「じゃあ心配ないわね!」
「えっでも本当に一回、付き添いでいっただけなんです!」
「今回も付き添いだし、ダンスに誘われることもまず無いと思うし、きっと大丈夫よ」
「そ、そうなんですか」

ダンスに誘われることはないと聞いて、ホッと胸を撫で下ろす。
ジーナの付き添いで行ったあのパーティー。実は「ダンスに誘われるかもしれないわ!」というジーナの言葉もあり、彼女の家で少しの期間習ってみたのだけども、先生の足を踏みっぱなしで上手く行った試しがなかった。その結果、テラスで1人時間を潰していて、綱吉と出会ったわけだけれども。
お礼を兼ねてついていったパーティーで、パートナーの足を踏むなんて失態を晒し、恥をかかせてしまうなんてことにはなりたくない。

「ドレスをなんとかしなきゃねえ」
「パーティーっていつなんですか?」
「明後日よ」
「明後日!?」

あれ、今度のパーティーとか言ってなかった!?もうちょっと先のことかと思っていたのに今度ってそういう意味で今度!?

「あれ、もうちょっと先だと思ってたわ」
「俺は明後日の意味の今度だと思ってたぞぉ」
「噛み合ってなかったんですね……」
「まあドレスはいくつか店に言って持ってきてもらって合わせるとして、色よね。髪の色が赤だからーー……」

顎に手をあてて、ふむふむと考えているルッスーリアさんに、あ、と声が漏れる。すみませんが、と切り出した。

「髪の色は隠したいので、黒染めか、もしくはウィッグを付けたいです」
「はぁ!? なんで!? もったいねー!」

私の言葉に瞬時に反応したのは意外にもベルさんで、あまりの勢いにひょえっと肩がびくつく。

「まあまあ、乙女が髪の色を隠したいって言うんだからそれなりの理由があるんでしょ」
「ウッセーオカマ」
「ちょっと!!」
「す、すみません。でもちょっと、目立つ場では……」
「まぁいいんじゃねぇかぁ。ついてきて貰うのに髪の色は関係ねーしなあ」
「えー? でも多少自慢したいとこない? 連れといて楽しいじゃん」

どき、と胸が鳴った。
少しだけ、嫌な記憶が頭を横切る。きゅっと手を握り締めて、ひとつ息を吐いて落ち着かせる。そんな私を横目で見ていたスペルビさんには気づかずに。

「まあ、髪は隠す。服と諸々はルッスーリアに任せるってことでいいだろぉ」
「任せてちょーだい」
「ま、しゃーないか」
「す、すみません」

苦笑いを浮かべて謝ると、気にすることねぇ、と優しい顔したスペルビさんに頭をぽんと叩かれた。びっくりして目を見開いていると、ハッとしたように彼自身も目を見開いていた。お、おお。

「……俺ぁ、ちとまだ用が残ってたから出てくるぜぇ」
「あ、はい。いって、らっしゃい?」
「……お゛う」

そそくさと出ていったスペルビさんを見送って、ぽつり、

「あらやだ春かしら」

ルッスーリアさんが呟いた。