06

翌日、頭が酷く痛む。

「なんでお前そんなに死んでんの?」
「いや、ちょっと、二日酔いかと……」
「は? 酒?」

いつ飲んだのお前、とニヤニヤしているベルさん。内緒です。
二日酔いだとしてもたったあれしきの量で翌日まで引きずってしまうなんて正直情けない。でも強いお酒だったし、普段全然飲まないし。と、言い訳させてくれ。
朝も昼も夜も関係ないとばかりに、元気なベルさんを始め、スペルビさんとルッスーリアさん。みんな私の様子を見て首を傾げていたけれど、さして気にすることでもなかったようですぐ忘れられた。いいです。
昨日の夜ふかしと、お酒のせいで随分寝てしまい、もうお昼になる。夕方からのパーティーに向けて、ルッスーリアさんの気合いの入った準備が始まった。












「お、美味しそう……!」

目の前に並ぶ料理とデザートの皿の数々に思わず圧巻される。人生2度目のパーティーもやはり目が行くのは食べ物だ。

赤い髪は黒ウィッグの中になおしこんで、真っ黒な、少しだけフリルの入ったドレスを身にまとって、夢の世界に迷い込む。女の夢ではないだろうか。

「う゛ぉ゛お゛い、はぐれんじゃねえぞぉ」
「あ、はい」
「ま、黒はなかなかいねぇから見つけやすいけどなぁ」
「あ、あはは」

会場にいる女性はやはりみんなドレスに身を包んでいるものの、真っ黒というのは私以外に1人もいなくて、それはそれは目立つ。勿論、いい意味ではなくて、悪目立ちだ。それでもまあいいかと思えるのは、スペルビさんたち自身も真っ黒な衣装なので、私ひとりがおかしい訳では無いからである。本当に1人だったら正直すぐにでも帰っていたかもしれない。聞けば黒というのはヴァリアーのイメージカラー的なものらしくて、なるほどと手を叩いた。

「なんか食おーぜ」
「私甘い物食べたいです」
「あっちあっち」

スペルビさんは「めんどくせぇが挨拶回りしてくるぜぇ」と言い、どこかに行ってしまって、ルッスーリアさんはそもそも別件があるらしくここには来ていない。必然的にベルさんと2人、ぶらぶらと料理の乗ったテーブルを見て回ることにした。
聞くところによると、選りすぐりのシェフを集めているそうで、イタリアンはもちろん、フランス料理から一般的な洋食、そして和食まで取り揃えられていて全く食べ飽きることがない。

「あ、和食もおいしい」
「そー? オレ日本食全然食べないからわかんね」
「なんかほんとに、和食って感じ」
「まあ、うちのドンとその周りの奴らは日本人だからなー。多分わざわざ向こうの調味料とか取り寄せて作ってんじゃね」
「なるほど」

だからこの懐かしい感じか。
ついこの間まで食べていた味なのに数日離れただけで懐かしいと感じるんだから、人の舌というのは敏感だ。
美味しいご馳走達に舌鼓を打っていると、談笑でざわついていたホールがいきなりシンと静まり返って、前の方にあるステージに注目した。「だりー、話とか別にいらねーのにな」と横でボヤいてるベルさんを見るに、恐らく今から主催者による挨拶がはじまるらしい。お箸を持っていた手を止めて、私も静かにそちらを見る。ゆっくりとステージの端から上がってきたその姿に、目を見開いた。

「本日はお忙しい中お集まり頂きありがとうございます。ボンゴレファミリーボスの、沢田綱吉です」

真っ白なスーツに身を包んだ、恋焦がれたその人がそこにいた。
ツンと跳ねた髪も、透き通るような目も変わらない。少し、襟足の髪が伸びているようだ。胸が、熱い。

「郁?」

ベルさんが話しかけてる。綱吉が、ずっと壇上で話してる。でも上手く耳に入ってこなくて、ただひたすらに胸を押さえた。
しばらくすると挨拶が終わり、綱吉は壇上からおりていく。人混みの中に混ざって、見えなくなったところで、ひたすらに私を呼ぶベルさんの声で我に帰った。

「あ、べ、べる、さん」
「なに? なんかチョーシ悪い?」
「いや、ちがうんです、大丈夫です」
「変なの」
「へへ、そうかもしれません」

ああだめだ、顔がにやけて仕方ない。

「何ニヤニヤしてやがる」

唐突に、聞いた覚えのある声が上から降ってきてぱっと顔をあげる。

「あり、ボスじゃん」

昨日のあの人がそこにいた。