07
その日。朝から仕事に出てくるつもりがまさかの寝坊をしてしまい、普段よりも一時間遅く出勤すると、私の常連さんが揃いも揃って店の前で談笑していた。
エリオとロレンツォの中に混じっている綱吉はなんだか新鮮でしばらく眺めてしまったけれど、こんなことしてる場合じゃないんだってば。綱吉が来るのは大体昼過ぎで、よってロレンツォ達と鉢合わせすることはないだろうと思っていたのだけど、意外とそうでもなかったらしい。出勤してきた私を見つけた三つの顔がみんな同じように、ぱっと明るくなって笑顔がこぼれる。なんだなんだ、嬉しいじゃないか。
「おはよう三人とも」
「おは、」
「おはよう郁! なんだよ郁が遅刻なんて珍しいな! どうせ寝坊だろ!」
「おはよう郁さん! 今日もきれいな髪だね! 体調でも悪いんじゃないかと思って心配したよ? 大丈夫? ちゃんと食べてるの? よければうちに食べに、って、あ、そうだ。母さんがマドレーヌありがとう、とても美味しかったって言っていたよ。僕も頂いたけど本当に美味しかった。、郁はお菓子作りも上手なんだね。また僕のために作ってくれると嬉しいな!」
「う、うん、また今度ね。時間があったらでいいなら作るよ」
「いつでもいいさ、待ってる」
満足そうに笑うロレンツォの後ろで綱吉が目を丸々とさせて驚きで顔が染まっていく……!
ロレンツォのマシンガントークっぷりは初見だとかなりびっくりするのは、私も経験しているのでわかる。エリオももう慣れているので、うるさい喋り過ぎ!と膝かっくんをしてたりするけど、やはり最初はびっくりしたものだ。一対一で話す時はこんなことはないんだけれど、エリオみたいに張り合う相手がいるとどうにも暴走気味だ。
特になんだか今日はいつもに増してテンションが上がっている
「珍しい面子だね」
「うん、俺が今日仕事なくて早く来たら会ってさ。少し話してたんだ。彼もよくここを利用してるって」
「よくっていうか、ロレンツォに関してはほぼ毎日だね。綱吉の上を行く常連さん」
「えっ」
「えっ」
「そうなんだ……」
「(何故落ち込む!)」
「日々猛アタックをしているんだけど、なかなかふりむいてくれなくてね。まあそこも郁さんの魅力の一つなんだけどね!」
「そうだね……」
やめて魅力とか言うのやめて。なんでだか知らないけどロレンツォが喋るたびに綱吉の元気がみるみるうちになくなっていってるからやめてあげて!
私が来た時を100だとすると、今12くらいまで意気消沈しちゃってる綱吉を横目にちらちらと気にしながらも続いた会話を程なくして終わり、ロレンツォとエリオが綱吉と対照的に元気良く帰って行くのを見送った。
さてと。
「どうしたの、綱吉」
「……」
「つなよしー」
「……まさか、話に聞いてたお見舞いに花を買って行く常連さんが男だと思ってなかった」
「えっ、女って言ったっけ」
「言ってない、けど。郁の口振り的に仲良さそうだったから」
「まあ、仲はいいね」
「うぅ」
「何故泣く!」
何言ってんの泣いてないしばーかばーか泣いてないし。と拗ねたようにする綱吉に、心の中で「子供か」と突っ込む。
「すごい猛アプローチ喰らってんじゃん」
「え、あれそう見える?」
「本人がそう言ってるじゃん」
「だとしたら有難いけどね。でもきっとそれはないよ。私が男だったら、私を好きになったりはしないもの」
「でも郁は女の子でしょ?」
「ま、まぁ」
「俺は好きだよ」
「……」
「郁のこと、俺は好きだよ」
ああ、こういう。
こういうところが、イタリアの男はずるい。
「それはそれは、ありがとうございます?」
「なんで疑問形なの!」
「あはは、なんでかな。でも、お世辞でも冗談でも嬉しいよ、ありがとう」
「(お世辞じゃないんだけどなあ)」
今日の教訓。
ずるい男にご用心。