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これまでのあらすじ。
蓮巳くんとの図書館勉強会後、ランボくんと出会った私は、諸々あって沢田くんちに足を踏み入れることになった。
奈々さんはどうやらお買い物に出ているらしくて、そのまま2階の沢田くんのお部屋に通されることになった。
どきどきしながらついていくと、舞い上がって忘れていたけれどまあ当たり前に赤ん坊がいた。ちょっと気まずい。
しかも沢田くんは「飲み物とってくるね!」と出て行ってしまったし、ランボくんはイーピンちゃんを見つけてそのまま庭で遊び始めてる。沢田くんの右腕くんたちも今日はいないらしくて、というかまあもう夕方だし帰ったのかもしれないけれどとりあえずいない。つまるところ、沢田くんの部屋にあの赤ん坊と二人きりなのである。
彼も彼で少し気まずさを感じているのが、口を開けてはきゅっと結んでいる。
胸中で小さく息を吐いて、心を決める。

「こんにちは、リボーンさん」
「……ああ」
「こんにちは」
「……ちゃおッス」
「この前は、すみませんでした」

取り乱して、と続けた私に、驚いたようにこちらを見る。
悪いと思ったら私は謝りますよ、と続けると、「オレも、悪かったな」と言いながらボルサリーノを少し深く被った。
おお。常識があるようでないのかと思っていたけど、その辺気まずさとか罪悪感とかあるのか、なんて思ってしまってこれはこれで失礼だなと反省。

「あのこと、沢田くんに言わないでくれるなら許します」
「許してほしいからじゃねえが、オレからは言わねえぞ」

そう言ったリボーンさんに、思わず目をぱちくりしてしまった。
へらりと笑って、ありがとうと言うと、今度は向こうが目をぱちくりさせて「ああ」といった。
そうこうしているうちに、沢田くんが飲み物を持って戻ってきた。

「ごめん、麦茶くらいしかなかったんだけど!」
「大丈夫だよ、麦茶すきだから。ありがとう」

にこにこしながらグラスを受け取ると、沢田くんが顔をわずかに赤く染めた。
女の子に免疫ないんだろうなあ。
麦茶をひとくち頂いて、机の上に開かれた問題集が目に入る。宿題か。その視線に気づいた沢田くんが、恥ずかしそうに口を開く。

「蕪木さん、宿題どのくらい終わった?」
「あー……私は、7月中に」
「え!?全部終わったの!?」
「う、うん、特にやることなくて暇だったから」
「ええ……すごいね……」
「そんなことは、」
「ツナ、お前嫩に勉強教わったらどうだ」
「え!?」
「は?」

後の「は?」という冷たい反応の方が私です。
ちょっとちょっとリボーンさん。それはあれ?余計な気を遣っているわけではない?よね?
とか何とか思っていると、「嫩は頭いいんだろ?」と言われた。あ、素直に勉強ね、よかった。

「悪くは……ないかな?」
「いいでしょ!学年1位じゃん!」
「じゃあいいじゃねえか、ツナに勉強教えてやってくれ」
「えーと、私でいいんでしょうか?」
「むしろ蕪木さんにお願いしたいから!」

それはなんか照れるなあ。口元が緩んじゃう。
というか、沢田くん意外と勉強に前向きなところもあるんだな。勉強イヤ〜!宿題イヤ〜!って感じのイメージだった、正直。
そこまで言われたら断る理由もないし、せっかくの夏休みだし、まあいろんなことに手を出してみていいだろう。
立ち上がり、机の上の宿題を許可を得てからパラパラとめくる。ふむ、順調ではなさそうだけど、やろうという意思は感じられる進捗だ。

「じゃあ、えっと、沢田くんはいつ空いてる?」
「毎日空いてる!」
「あはは、それは嘘だよ」
「なんで!?」
「沢田くんは人気者だから」

問題集から顔を上げて笑って言うと、沢田くんはびっくりしたような顔をしてた。

「オレから見れば、嫩の方が人気者だぞ」
「ちょっ、俺が言おうと思ったのに!」
「ええ……?そんなことないよー」

そう言いながらまた問題集に目を落とす。
視界の外で、沢田くんとリボーンさんが顔を見合わせているのは知らずに。