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土曜日の朝。仕事は休みで昼まで寝ていようと思っていたら、宅配便が届いて起こされた。送り人は両親からで、中身は米やら野菜やら。手紙に「ちゃんと自炊できてますか?」とだけ書かれていた。ぼちぼちしてます。
ほっこりする優しさに頬を緩めていると、少しだけ元気が出た。
いつまでもくよくよしていられない。荻窪くんがああ言ってくれたのだから、私は普通に過ごさなければいけない。前を向かなければいけない。
何も予定を入れていなかったけれど、思い立って思いっきりおしゃれをする。化粧もいつもより丁寧にして、髪を巻いて、行き先もやることも決めず街にくり出すことにした。

お金に余裕がある訳では無いので、大体はウィンドウショッピング。どうしても一目惚れしたパンプスを一足だけ買って、初めて見付けたカフェに入り、サンドイッチを食べ、コーヒーを飲む。こんな時間の過ごし方をするなんて大人になったなあ、となんとなく考えたりして、店を出た。
薄暗くなってきた帰り道の途中、一つのジュエリーショップの前で足が止まった。道沿いのショーウィンドウの中に光るネックレスに目がとまる。珍しい、オレンジの石がついたネックレスだった。値段は、少し高い。でも生活を切り詰めれば買えなくない金額。さっきのパンプスに加えてこれは痛いけれど、それでも買わないという選択肢はないほど惹かれてしまっていた。即決で購入して、たまたま今日は首元に何も付けていなかったのでその場でつけた。
素敵な出会い。今日は出掛けてよかった。いいものに出会えて、いい時間を過ごせた。あとは帰ってゆっくりしよう。ゆっくりお風呂に入って、お酒を飲みながら友達から借りたままの映画のDVDを見て、そのまま眠ろう。それが出来たらいい日だ、いい1日の終わりだ。
そんなことを思いながら、帰路を急ぐ。

──途中、人の悲鳴が耳に入る。
暗い道の中「助けて」という言葉が聞こえた気がして、何が出来るわけでもないのに反射的にそちらへ向かってしまったのが、私の運の尽き。
恐らくひったくりだったのだろう。いや、刃物を持っていたから強盗だったのかもしれない。ちょうど行き着いたそこに、刃物を持って逃げている犯人と思しき男がいて、至近距離で、対面した。

「っえ」
「クソッ!!」

ぶすり、身体を何かが貫く音が、耳に届く。男も予想外だったのか、狼狽えてそのまま持っていたナイフを引き抜いた。勢いでドバドバと流れ出す血は、傷の深さを示している。痛くて、熱くて、意識が朦朧とする。いつの間にか倒れていた私の頬を、自分の流れ広まった血が濡らしていく。
男は走り去ったようで、遠くに見えた悲鳴を上げた人と思われる女性が、わたわたとこちらに寄ってくるのが見えた。
泣かないで、あなたのせいではない。私が迂闊だったの。泣かないで。私はきっと、この日を待っていたの。
もしこれで死ぬのなら、それでもいい。ただ一つだけ、彼に一目会えますようにと願いながら、意識を、手放した。