みんなの対人戦闘訓練が終わり、オールマイトセンセが慌ただしく去っていく。1戦目後すぐに保健室に運ばれた緑谷くんのところに行くのだろう、けど、それよりもまああの姿を保つのがギリギリになったんだろうな。
初めてのヒーロー基礎学の負傷者は切り傷擦り傷的な軽症者は多数いたけれど、重傷者は緑谷くんのみ。それもまあ、プライベートな内容も加わった戦闘だったようだし、止めなかったオールマイトセンセは恐らくだけど怒られる。
どんまいだ。
「来栖さん、なんだか戦い慣れてる?」
コスチュームから制服へと着替えるべく更衣室に戻ると、麗日さんがぽろりと私の顔を見ながら零した。
「そう見えた?」
「うん」
「ケロ、ごめんなさい、私もそうだと思ったわ」
「そう……」
私と麗日さんの話を聞いていたらしい蛙吹さんもがそう行ってきた。まあ、それはとっても正解なのだけど、言うわけにはいかないところなのだ。私の出生の話にもなるので。
少し表情が曇っているように見える麗日さんに、さて、どう誤魔化そうかなあなんて考えていると隣の蛙吹さんが口を開いた。
「ユズリちゃん、怪我はしてないのよね?」
「え、怪我、いや、大丈夫、よ。どこも怪我はしてないわ」
私が氷から抜け出すところは誰にも見えていないはずだ。証拠に、対戦後はどうやって氷から抜け出したのかなんで裸足なのか等々詰め寄られ聞かれたし、八木だって首を傾げていた。彼女らに見えていた筈はない、のだけど。
鋭いというか、聡いというか、優しいというか。
「ありがとう、ふたりとも」
「う、ううん!怪我してないならいいの!」
「ごめんなさいね、変な事言って」
「謝ることないわ」
***
放課後。
教室では今日の訓練の反省会が始まったけれど、私は職員室に用があるからと言って抜け出した。
下手に壁を作ってしまうのはよくないのも頭では理解しているけれど、どうにもやはり心から正義のヒーローを目指す子達を目の前に、自分の言動はおかしくないかと少し気にしてしまう。果たしてそれが罪悪感からなのか、引け目なのかはわからないけれど、私にはあの子達はまぶしく感じるのだ。
さて、私が吸血鬼ということはやはり伏せたがいいのかを再確認しておこうというのもあって八木を探すついでに、昨日はそこまでできなかった校内探検と洒落こんであちこちぷらぷらしていると、校舎の外、校門へと続く道で緑谷くんと爆豪くんが何かを話しているのが聞こえた。緑谷くんは普通だけれど、どうも爆豪くんのほうが感情的になっているようだ。今日の戦闘訓練のことで間違いないだろうなあと思いながらも私には関係ないので歩みを進めていると、少年たちの中にオールマイトまで合流していた。爆豪くんのフォローだろうか、教師って大変ね。
さっさと通り過ぎようと校門近くを歩いていると、ザッと足音がして思わず振り向いた。
どうやら話し終えたらしい爆豪くんがそこには立っていて、見開いた目尻に涙が光っているのが見えてしまった。
「え、泣い」
「てねえわ!!!ぶっ殺すぞ!!!!!」
いや勢い。目をさらにかっ開いて爆豪くんが怒鳴って、口から出かけた言葉をスンと飲み込んだ。
校門には私の方が近いので、彼が帰るには私のそばを通らなければいけない。
一応クラスメイトではあるけれど、ドンマイなんて声を掛けたらそれこそ彼のたっかいプライドが許さないだろう。これはまあ、黙ってお互い通り過ぎるのが一番かも。
そう思って、「おつかれさま、また明日ね」と声をかけるだけかけて足を動かしたところで、「テメェ」と口を開いた。
「私はテメェなんて名前じゃありません」
「うっせぇわ。飄々としやがって」
「え、慰めて欲しいの?」
「ちげえよ!!!」
「じゃあなによ」
「お前ひとり、余裕ぶっこいてんじゃねえよ」
は?
「いや、待って、私負けたんだけれど」
「でも本気じゃねえだろうが」
「……轟くんと相性が悪いのは本当よ」
「余裕なのは否定しねえのな」
「余裕では、ないと思うわ」
何の力も持たない人間相手ではないから、正直難しい。今までは一方的にやり込めたけれど、この世界では恐らくそうはいかない。ただ、治癒能力の高さと死なないというのは私の圧倒的強みだ。
足の鎖も切ろうと思えば切れただろうし、手足を凍らされて床に伏した時も、暴れればもしかしたら動けたかもしれない。あくまで、可能性の話だ。
「恐らく、場数と死線の違いよ。所謂経験値ね」
「アァ?」
にっこり。
これ以上話す必要もない。無言で笑みを浮かべると、チィッと盛大な舌打ちをして彼は私の前を通り過ぎて行った。
「若いって、いいわねえ」