05

「予想はなんとなーくしてたけど、うん、さすがだね! 余裕で合格だよ!」
「やったー」
「うん、棒読みだね!」
「……だって」

試験、余裕だったんだもの。
──とはまあその試験内容を考えたであろう校長に言うのはあんまりかと思い口を噤む。がしかし、「まあ余裕だっただろうしね」と言われてしまった。その通りよ。
他の雄英志望者は既に試験が終わり合格通知も終えた後という見事に時期がズレてしまったので、私はひとりそれと同じ内容を受けたのだけれど、機械仕掛けの仮想敵をいかに多く倒すかという内容だった。本来ならば、一斉に受験者たちがそれを受けるので、いかに他の受験者より迅速に対処ができるか、というところも審査基準のひとつだったようだけれど、まあひとりで受けるのだ。他の受験者に敵をとられる心配もなく、いかに早く正確に対処できるか、というところを見たようだけれど、サクッと終わらせた結果見事合格だった。当たり前といえば当たり前だ。機械なんてそもそもプログラムされて動くのだから、予想外の動きなんてそうそう成されない。しかも、試験用だし。
──だけれど。

「?、ユズリくん?」
「どうしたんだい?」

渡された合格通知、並びに入学許可証を手に黙り込んだ私を、根津と八木がのぞき込む。

「素直に、言うわ」
「?」
「入学、めっちゃ嬉しいー!」
「なんかキャラ変わってない!?」

テレビでよく見るアイドルの言葉を真似して、嬉しいのを表現してみた。
ええ、素直に言うわよ。嬉しいわ。とてもね!

「学校なんて通ったことないもの」

そう言うと、唐突に無言になってしまったふたり。

「別にあなたたちが気にするところじゃないわよ。私のいた所は人間ならざるものは稀。異形は異物、異物は嫌厭され敬遠されるものというのが当たり前だったもの。学校なんて行こうとも思わなかったわ」
「でも──行きたかったんだろう」

へらりと笑いながら淡々と話したつもりだったけれど、八木が至極真面目な声でそう言うものだから、一瞬固まってしまった。平気なのに、なんでそんなあなたの方が寂しい顔してるのかしら。
私が忌み嫌われるのは、仕方の無いことであり──自業自得だったんだから。
私より背の高い痩せっぽち男の金髪をぽんぽんと撫でると、慌てたように「絵面的にそれはちがう!」と言った。何よ絵面って。

「八木が先生やってくれるのよね?」
「入学したらオールマイトって呼んでね!? 八木呼び捨てはだめだからね!?」
「あと、オールマイトのトゥルーフォームのことも、くれぐれも他言無用で頼むよ。マッスルフォームのヒーロー姿しかみんな知らないからね」
「え?」

根津の言葉に軽く首を傾げる私に、二人がさらに首を傾げる。

「ヒーロー引退予定なのかと思ってたわ、隠すのね」
「え……?」

けろりと言った言葉に、八木が青ざめて固まり、エッ何かまずいこと言った!?と私が口に手を当てた。
「どうして、そう思ったんだい……?」と神妙な顔をし尋ねる八木に恐る恐る口を開く。

「あなた、血の匂いが違うわ。というか、変わったわ。変質したというより、そうね、何かが抜け落ちたみたいな」
「……」
「その代わり、時々別の血の匂いをつけてくることがあったでしょう。そっちにその何かが抜け落ちた部分が含まれた感じ」

抽象的にしか言えないんだけどね、と続けると、そうか、と八木がうつむいた。
何となく、その抜けたものは八木にとって大切なもので、つまりそれはヒーローであるためのもので、それを八木は誰かに託したのだろうと思っていた。結果、ヒーロー業の引退後ってところで教師をすると思っていたのだ。
そう伝えると、「なるほどねえ」とうつむいたまま苦笑していた。初めて見る様子に、眉間にしわが寄る。

「……ごめんなさい」

ぽつりと呟くと、えっと八木が顔を上げこちらを見て、逆に私が視線を下げた。

「あなたにとって、望んでいたことではなかったのね。不用意に口にしてしまって、ごめんなさい」

八木が俯いて乾いた笑いを浮かべるところなんて初めて見た。それだけ、彼にとって辛く、苦しい選択だったということだろう。そうとは露知らず何の気なしに口にしてしまったばかりに、そんな顔をさせてしまったのが申し訳なくなった。
俯いていると、ぽんと頭に暖かい手が乗った。大きい手だ。

「……なによ」
「優しいね、君は」
「ちがうわ」
「優しいよ」

本当に優しかったら口に出す前に気付くわよ。
気まずくて、気恥ずかしくて視線を反らした先に根津が微笑ましそうな顔をしてこちらを見ていて、ガンを飛ばしておいた。