「はあああ!?」
グラウンドに驚きにまみれた声が響く。
入学して初日早々、個性把握テストを行うからと体操服に着替えて外に出るよう告げられた僕たちは、そのテストのトータル成績最下位は除籍処分とする、と担任の相澤先生から宣告を受けた。
みんなが深刻な面持ちでいるけれども、僕はそんなものではない。
僕はまだ個性をまったくといっていいほど使いこなせていない。0か100か、なのだ。使わなければ成績が残せず除籍、使えば100%怪我をする。
どうやってこの試練を切り抜けるか、頭をフル回転させている間にもクラスメイトたちは各々の個性を使ってタイムを出していく。僕の番がきて、かっちゃんと並んでスタートをきり、ド派手な個性で好タイムを出す彼とただ走っただけの僕。その差は歴然で唖然とする。
と、最後の組がレーンに並ぶ。といっても、今年うちのクラスは21人で、今から走るのは最後のひとりの来栖さん。あの、とても綺麗な人だ。
さっき教室ではばたばたしてしまったけれど、改めて見ても彼女はそこらの芸能人よりも綺麗で皆の視線を集めてはざわつかれている。そんな彼女の個性はなんだろう、と僕も興味津々で視線を送り続ける。
「よーい、」
スタート。
相澤先生の一言が響いたその瞬間、50m走にはあまりにも不釣り合いなほど軽やかに、彼女は地を蹴った。
ストンッ。
次の瞬間と言っても過言ではないほど。その軽やかな姿に見蕩れた一瞬の間を置いて、気付いたら来栖さんは50m先でまたも軽やかにゴールしていた。
「2秒08」
「スッゲー! 最高タイムじゃねえか!」
「ケロ、見蕩れてしまったわ」
ゴクリと唾を飲む。
ゴールした来栖さんは、息を切らす様子なんて全くなくて、まるで何もしてないかのようにのんびりと歩いている。
他のみんなも、個性をつかって、出来るだけのことをしている。
──やばい。
このままだと、確実に僕が最下位になる。除籍に、なる。
***
入学初日から個性把握テスト、なんていうからどんなものかと思ったけれど、内容的には本当に普通のものだった。
普段の私以上にだらけた姿で現れた相澤には思わず吹き出しそうになってしまったけれど、その厳しさも合理さを求めるところも彼が教師ということにおいてはなるほどなと思った。敵と命のやり取りすることもあるであろうヒーローを育てるにはもってこいの性格なんだろう。
私の成績は、第1種目の50m走は難無く最高タイムを叩き出して、第2種目の握力は平凡なもの。続く立ち幅跳びも跳躍では秀でている方らしく、かなりの好成績。反復横跳びはそこそこ。ボール投げは無理、普通、肩なんて強くない。
各々疲れや、個性の反動なんかで順番がばらばらになって、最後にボール投げの位置に立ったのは緑谷出久という少年。
一目見て、というか一嗅ぎしてわかった。八木──オールマイトが育てているのはこの子だと。八木の匂いもした、血の匂いもした。でも何より、八木から抜け落ちたような何かの匂いが彼からした。
私よりも背の低い、まるで優しそうなそばかすの男の子。お手並み拝見と思っていれば、彼の成績は本当に、私以上に並だった。いや、最低だった。
「まだまだこれからなのは分かってるけど、大丈夫なの? あの子」
「わからない、わからないけど……! っていうか、なんで君がここに!?」
「覗きはよくないですよ、オールマイトセンセ」
嗅ぎ慣れた匂いがそばに来ていればそりゃあ分かるもんだ。
物陰から緑谷くんを見守っている彼にそっと近寄って喋りかければ、面白いくらい驚いてくれて満足した。
「相澤くんが担任となった以上、私には口出しはできない……」
「んじゃ見守るしかないわね」
「来栖くううん」
「これでダメならそこまでだけど、あなた自分が見込んだ跡継ぎくらい信じてなさいよ」
No.1ヒーローが情けない声出すな。
そう言うと、「そ、それもそうだね!」とコクコク頷いて、しっかりと緑谷くんの姿に視線を注ぎ始めた。
少しなにか揉めたようだったけど、暫くして投げた彼のボールは見事かなり遠くへ飛んで行ったようだ。更にそれでなんだか別の男子が喚いていたようだけれど、とりあえず横の人物を見ると興奮で震えているようで、それを見て私も口元を緩ませた。