翌日からは普段通りの日程だ。ヒーロー科といえど、学生には変わりないので普通の座学も行うらしく、午前は必修科目・英語などの普通授業があり、午後がヒーロー基礎学と言われる授業だそうだ。
果たしてどんなことを行うのかと思っていれば、八木、じゃなかったオールマイトが勢いよく教室のドアを開けて入ってきた。ナンバーワンヒーローの登場に一気に教室が沸いて、微笑ましくて思わず笑ってしまったのは内緒だ。
「早速だが今日はコレ!戦闘訓練!」
「戦闘……」
「訓練……!」
「そしてそいつに伴って、こちら!入学前に送ってもらった個性届けと要望に沿ってあつらえた、
「おおおお!」
戦闘訓練の言葉とコスチューム発言にさらにざわつく教室。
コスチューム要望、私適当に書いちゃったのよね。
個性届けも急ぎ手配したものの、アバウトに吸血操血とだけしか書いてない。もともと戦闘は慣れっこだけれど、戦闘服なんてあるわけはないので普通の洋風で戦うのが一番身軽で慣れているのだ。
出席番号の振られた戦闘服の入った入れ物を配られ、それに着替えグラウンドβに集まるように指示をもらって、女子男子分かれて更衣室へと急いだ。
***
「わ!来栖さんのなんか大人っぽい服やね!」
そう声をかけてくれたのは、昨日一番に話しかけてくれてその後に少し仲良くなった麗日お茶子という女の子。彼女が話しかけてくれたのを筆頭に続々と女の子達が話しかけてくれて、おかげさまでぼっちは脱却できた。友達の作り方なんてわかるわけもなく、そもそも年若い人間に自分から話しかけるなどそうそうしてこなかったから内心戸惑っていたので、とてもありがたかった。
大人っぽいと言い表してくれた麗日さん本人の戦闘服は、かなり身体のラインをはっきりと表すぴっちりとしたものだ。
「麗日さんのはなんだか、破廉恥ね」
「やめてえ!考えんようにしてたのに!」
赤くなった顔を手で押さえながらそう言う彼女はとても可愛らしい。どこかの方言らしい訛りもまた可愛い。
「こんなことになるならちゃんと要望書いとくべきだったよう!」
そう言って泣きべそをかく麗日さんの頭を耳郎さんがよしよしと撫でている。
見回すと、ふむ、みんな自分の個性に合わせてあるんだろうな。それぞれに雰囲気も違ってとてもよく似合っている。
私はと言うと、シンプルに長袖の白シャツに膝上の黒いワンピースを合わせたもの。足元は、膝下の少しヒールのある黒い編み上げブーツ。シャツに少しフリルがあるのと、胸元に赤いリボンがあるだけで他になんの飾り気もない。もう少し何か書くべきだったかなとみんなを見ると思うけれど、でもやっぱり他に特に要望が思いつかないのだからしょうがない。
ただ、ひたすら動きやすさだけは要望に書いたので、生地はどうやら軽めででも丈夫な素材で作ってくれているようだった。
みんなの衣装を参考になるなあなんて呑気に眺めていたら、徐に八百万さんが顎に手を当てながら口を開いた。
「来栖さんのはなんだか本当に、個性が何かわかりませんわね」
八百万さんの言葉に「……確かに」とみんなの目がこちらを向く。
「来栖さん、身体能力が高そうなのは昨日わかったけど、それが個性なん?」
「でもだとしたらもうちょっとコスチュームに要望出すんじゃないかしら」
「確かに!え、来栖さんの個性って何!?」
気になる気になる!とキラキラとした視線が集まり続ける。
あー、と言おうか迷った末に、にやりと笑った。
「この後の戦闘訓練でのお楽しみね」
***
戦闘訓練と称された今日の授業は、敵組とヒーロー組に別れた屋内での対人戦闘。基本は2対2の戦闘訓練だけれども、私がひとり溢れているので、私のいるチームは3人になってしまう。ちょっとだけ申し訳ない。出席番号は五十音順らしいけれど、あとから急遽追加された私は一番最後でA〜Jまでのくじ全てが入った箱を漁って引き当てたIチームに入らせてもらうことになった。メンバーは尾白くんと葉隠さん。よろしくねとにこりと笑えば、姿は見えないけど葉隠さんが「来栖さんよろしくね〜!」とぴょんぴょん跳ねて、尾白くんも返事してくれた。良かった、癖はあるけど絡みづらい人じゃなかった。
そうこうしているうちにスタートとなった1組目は、どうにも相性が悪いことは早々にクラスが理解していた2人が敵同士になっている。
昨日、個性把握テストで指を壊してしまっていた緑谷くん。勿論個性を使うのは最小限に留めたいところだろうけど、それがさらに敵組の爆豪くんは煽られていると勘違いしているようで、対戦はヒートアップするばかり。
なんとか個性を使わずに食らいつく緑谷くんだけれど、うん、やっぱり難しいわよね。
昨日見ただけで分かる、爆豪勝己の圧倒的センスとその個性の強さ。この前まで中学生だったにしては鍛えられている身体は、彼が更に努力を惜しまないタイプだろうことも想像に難くない。
片や、八木から鍛えられ力を貰ったといえど、逆を言えばそれまでは個性を扱うこと、争いにも無縁だったであろう緑谷出久。
「俺を舐めてたんかてめェはぁ!」
圧倒的力の差があるにも関わらず余裕のない爆豪くんと飯田くんのチームは、緑谷くん・麗日さんチームの策により敗北した。
八百万さんの講評が、見えない槍でグサグサと爆豪くんを刺していたようだった。
そんなこんなで続きまして私の番。
「2人の個性聞いてもいい!?私は透明人間!」
本気だすからあとで手袋とブーツ脱ぐわ!と話し掛けてきたのは葉隠さんで、それに対してなんとも言えない微妙な顔した尾白くんが、「俺は尻尾。結構丈夫で攻撃したりとかもできるよ」と教えてくれた。
「来栖さんは?」
「私は……操血?」
「そうけつ?」
「え、それってプロヒーローブラドキングと一緒じゃん!かっこいい!やっぱり血を操るの?」
「そうね、でも普通に戦闘の方が得意かも」
吸血鬼、と言っても良かったけれど、直前になっていやいやこれは勝手に言っていいことかわからないなと思い、ちょっと言葉を変えさせて貰った。まあでも嘘は言ってない。
「初めてだからドキドキだけど頑張ろうね!」と言う葉隠さんに、緊張した面持ちの尾白くん。ふたりの温度差にちょっとだけ笑ってしまったけれど、そうね、と頷いた。
さて。
私達はくじ引きの結果、
敵チームは建物内に核兵器を隠し持っていて、それを制限時間まで守り抜くかヒーローチーム全員を捕まえれば勝ち。ヒーローチームは敵チーム全員を捕まえるか、核兵器を回収すれば勝ち。シンプルだけれども2対2だからこそ策が必須。
──のところを、私が入ってしまうのでやっぱりバランスが崩れてしまうということで、なんと私にハンデがついた。
「重いわねえ」
ジャラ、と鎖が音を立てる。
鎖自体は重くないけれど、両足についた枷は重りを兼ねていて普段通りとはいかないほどには確かにハンデになっている。
尾白くんが、枷をみた瞬間自分がつけると名乗り出てくれたけど、まあここは私につけるのが妥当なのでお断りした。
核兵器を守る私達側は、まずは索敵されにくいとされる葉隠さんを尖兵兼ねて不意打ち狙い、その次に尾白くんが待ち構えて、最後核兵器の守り部屋に私という配置。私が最終的というのは、ハンデがあるのを考慮して尾白くんたちの思いやりのようなので甘んじたけど、正直大丈夫なのかしらという疑問はあった。
そう、疑問はあったのだ。
対戦開始して一瞬で、建物をまるごと凍らされた。室内も同じく床も壁も天井も全て凍り、足は見事に床に縫い付けられたように凍りついている。
「やるじゃない」
個性というのが一筋縄ではいかないことは分かっていたけれど、ここまで大規模なことを学生で出来る子もいるなんて素直に驚きよ。
油断していたとは言え見事に凍らされた自分の足を見ながらどうするかなあと考える。靴まで脱いでいた葉隠さんは勿論、尾白くんもこれでは動けないだろう。じきにやってくるだろうヒーロー側はきっと焦りもせずゆっくり歩いてくるのではないだろうか。
シンプルに、相性が悪い。
私は血を操るけれど、血は凍るのだ。どこまでやれるかといえば、やってみなければ分からない。
部屋のドア前にいたおかげで、設置された定点カメラからは恐らく私の足元までは映らないだろう。多少はやる気出さなきゃね、あれだけ熱い戦いを見せてもらったのだし。
スッと手を翳し、その爪を長く鋭く伸ばす。
愛用の剣ほどではないが、そこそこの強度はあるこの爪もまた相棒だ。
その爪を、ゆっくりと足に突き刺した。