04

俺には、ずっと好きな人がいる。
それはもう物心ついた時からで、ある意味家族みたいな、そのくらい近い人で所謂幼馴染みだ。
できるならずっと一緒にいたかったけれども、そうはいかなくなったのが中学生になってからだ。
リボーンという赤ん坊が俺をマフィアのボスにするってやってきた時から、色々と変わってしまった。というか、変えざるを得なかった。
最初悪ふざけだと思っていたそれは現実で、俺の周りの環境が目まぐるしく変わってしまって、それは決していいことだけではなかったから。
正直、危ない目にもかなり遭った。命のやり取りのような状況にも何度も立たされた。
中学で仲良くなった京子ちゃんやハルといった女子も、獄寺くんや山本、雲雀さん、京子ちゃんのお兄さん、黒川、ほかにもいろんな人を危険な目に合わせることになった。
そこまで大事になるとは最初思っていなかったけれど、自分の周りで起こる諸々に巻き込んでしまわないように、幼馴染みとは早々に関わらないようにしていた。まあ、俺が子供で、思春期真っ只中で、どうしても好きな人を前にすると恥ずかしくなってしまうというのもあったんだけれど。
それでも、ちらりと姿を見ると嬉しかったし、俺を見つけると控えめに挨拶してくれたりするのはうれしかった。

本当は、一緒にいたかったんだ。

でも、俺の良かれと思ってとった行動は独りよがりでしかなくて、俺が高校に上がるとき、彼女は知らないうちにいなくなっていた。
何の挨拶もなくて、知ったのは母からだった。
正直、ショックだったけれど、すぐに仕方がないことだと納得した。だって、自分がそう仕向けたんだから。
一緒にいられなくても、彼女が無事で幸せならそれでいいのかもと、それを願おうとしたけれど。

「お前、高校卒業したらどうするんだ」

高校3年に上がってすぐ、リボーンにそう聞かれた。

「こっちで大学に行くかどうかは任せる。個人的には、高校卒業したらイタリアに連れていきたいんだがな」
「急だな」
「そうでもねぇぞ。九代目は急ぐ必要はないと言ってるが、現実歳ではある。イタリアで身を固めてもらいてぇところが本音だ」
「身を固めるって、」
「伴侶を見つけろってことだよ」

何でもないことのようにそう言われた。
「今でも縁談は正直来てるんだぞ。イタリアにいけばもっと来る」そう言われて、すうっと冷静になった。
そうか、俺の人生はそれを中心に回りかねない状況にあるのだと。
仕方がないかもしれない、何かの長になるということはそういうことだ。俺の選択ひとつで良くも悪くもなる。そういう経験は今までもあった。

でも、──結ばれるなら好きな人とが良い。

そう浮かんだ心の声に、思わず口を押えた。
そうか、俺は今でも本当に好きで、彼女以外考えられないんだ。

「俺、短大行く。イタリア語も勉強しないといけないし」
「向こうでもできるだろ」
「いや、会いたい人がいる」

2年しかないけれど、2年だけでもそばにいたい。今までいられなかった分。
その先、俺にもし選択肢がなくなっても、その2年を支えにできるように。
口にはしなかったけれど、考えていたことはリボーンに伝わったんだろう。しばらく間を置いた後、「そうか」とだけ言った。

うちの母さんと、その幼馴染みのお母さんはずっと仲がいい。特に俺たちが疎遠になっているとも多分思っていない。
だとしても、本当はちゃんと家を借りるつもりでいた。
ただ、まあマフィアのボスになることになったからと俺は頭がいいわけじゃないのは本当で、特に机上の勉強なんて本当に苦手だった。
彼女の行った短大に、彼女が今就職したという近くに行くために、死ぬほど1年間勉強した。
まあ偏差値高いところで、通ったのは奇跡に近いくらいだったけれども。そんなこんなで家探しがおろそかになっていて、気が付けばほとんどの物件は新入生や新卒に押さえられてて、本当に見つからなかった。
一瞬青ざめたけれども、よくよく考えれば何とかなるかもしれない?と思っていたら、存外、彼女のお母さんがめちゃくちゃに楽観的だった。
昔からそうなのは知ってたけど、年頃の女の子の部屋に男を泊めるって言うのはさすがに考え付かないんじゃないかと思っていたら、そうでもなかった。めちゃくちゃ安易に決まった。
ただその先でさらに予想外だったのは、それが本人に知らされてなかったことなんだけれど。

大学入学の1週間前。彼女の住むという家を訪れる。
彼女のお母さんから教えてもらっていた住所にたどり着き、高鳴る胸をおさえながらチャイムを押した。
はーいという間延びした声に、少し頬が緩む。
ガチャリと開いたドアの向こうに、ずっと恋焦がれた彼女がいた。
すごくラフな格好で出てきた彼女はすごく大人びていて、綺麗になっていて、一瞬息が詰まる。
抱きしめてしまいたいのを押えて、緩む頬をそのままに口を開いた。

「涼ちゃん、久しぶり!いきなりで本当に悪いんだけど、ちょっと泊めてくれないかな?」