しみを数える
中庭を囲う廊下を歩いていると、たくさんの子どもの姿を見た。それは戦地で身寄りを失った戦災孤児たちだった。引き取り先に護送されるまでの空いた時間を、ここで潰しているのだろう。
誰もがみんな不安そうな表情を浮かべており、中にはまだ小さな姉が、それよりもっと小さい弟を抱きかかえてあやしているのも見えた。
ふと、背後を振り返る。
するとそこには、まるで忍び足と言わんばかりのポーズをとった上司がいた。その人は私に見つかったことに気づくとびくりと身体を固まらせた後、あからさまに肩を竦めた。
「……まったく、相変わらずおまえさんの見聞色の覇気は見事なものだな。」
「お久しぶりですガープ中将。どうも光栄です。」
「なんじゃお堅いな。なに、暇してるならこれからわしと訓練場にでも行くか?」
「ははは、ご冗談を。」
中将の気配の消し方は完璧だった。ただ私の覇気の精度がそれを上回るものだっただけの話だ。
つい、と先程まで私が見ていた光景に目を向ける中将。すぐ隣で目元を緩める気配を感じながら、やがて開かれた口から言葉が出るのを待った。
「子どもは好かんか?」
「……………………」
「なに、好かんモンはしょうがない。責めとるわけじゃあない。だがなぁ、子は宝だ。あんなにちっこいのに、時代を創る力を秘めとる。」
そう言って、屯する子どもたち一人一人を柔らかい眼差しで見つめるその人の顔は
「なんとも、素晴らしいモンじゃ。」
まさしく、親のそれだった。
責める気ではないというのは本当らしく、中将の言葉には端々に私を案じるものが感じ取れた。それを分かっていながら跳ね除ける私は、きっと不躾な奴だと言われるだろう。
「存じています。」
こちらに顔を向けた中将に、私は目線ひとつすらよこさないまま、続けた。
「だからこそ、そのような素晴らしいものに触れる資格など、私にはありません。」