面影のパレード



「クラウディア准将!お久しぶりです!」
「たしぎ少尉か、久しぶり。なんだ帰らないのか?」
「あぁ、はい、ちょっと立て込んでまして…」

クラウディアはたしぎが苦手であった。決して嫌いなわけではない。ただ得意ではなかったのだ。彼女が子どもを苦手に思うのと同じことであった。

それから成り行きで、二人で風呂に入ることになった。海軍には女性は少なく、入浴時間が被らない限りはほとんど貸切状態になる。今も、脱衣場にいるのはクラウディアとたしぎの二人だけのようだった。

「わぁ、硬い…!」
「鍛えてるからな。さすがに腹筋までは割れないが。」
「准将は二刀流でしたよね。私ももっと鍛えないとなぁ…。」

女の身であるが、彼女らも海兵である。その身体には小さなものから大きなものまで、いくつかの傷があった。それらをひとつひとつなぞると、ついその時の記憶を覗いてしまう。
やがて体を洗おうとクラウディアが浴槽から上がったとき、ふと彼女の下腹辺りに色濃く残った大きな傷跡が、たしぎの視界を掠めた。

「…准将、その傷……」
「ん?あぁ…昔ちょっと、やんちゃし過ぎてなぁ。他のものよりも目立つだろう?」

こんな場所にあるから普段は隠せるんだが。
そう言い、そっと傷跡を隠すように撫でた。からりと笑う彼女は過去の失態を恥じているようで、あまりに気の抜けた笑みに、はぁ、と間抜けな声が出た。蒸気に色付いた吐息が、浴室にこもる。
湯に当たったことで僅かに赤らんだその傷は、随分と昔のもののように見えた。


「准将、そろそろ…」
「んー、先に上がってていいよ。私は長風呂派なんだ。」
「分かりました、ではお先に失礼します。」

軽く頭を下げ、眼鏡がないせいでぼやける視界にふらつきながら、たしぎは浴場を去った。


「………苦手だなあ……」

腹の縫い痕に指を這わせながら、そう零した。