鉄格子の譜面



おれは何度も悩んだ。
クラウディアを海軍に入れたのは、果たして正しかったのだろうかと。

そばに置いておきたかった。自分の目の届くところにいてほしかった。あの時のように、またおれが一瞬でも目を離した隙に何かしでかされちゃ堪ったもんじゃない。
そして、世界を見て欲しかった。
荒んだ心を彩って、過去のことなど奥底に埋め尽くしてしまえるほど。


クラウディア、と呼ぶと、海のように凪いだ双眸がこちらを向いた。

よく言葉を選んで切り返しが遅くなるおれを、どんなときもじっと待ってくれる彼女は、辛抱強い女だった。

「お前は………、海兵になったことを、後悔してねェのか。」

優秀だったから、自分とは違って着々と地位を高めてきた。部下を率い、率先して前線に出ることも増えた。しかしそれが余計に彼女を海賊と近い距離に置くことになってしまっていた。
彼女はそれについて何も言わないが、おれはそれが嫌だった。


「してないよ。」

薬品くさいベッドの上で、クラウディアはそう言った。頬にかかった長い髪を払い、手にしていた報告書に再び目を落とす。神経質そうな細かい文字に目を走らせながら、淡々と続けた。

「あんたがどう思ってるのかは知らんが、私は、あの時お前に薦められた通り海軍に入ってよかったと思っているよ。」

スモーカー、と。
窓から射す光が彼女の髪に反射して、眩しさに目を細めた。


「私はな、海兵になったことも、あの子を産んだことも、これまで一度だって後悔したことはないよ。」


おれが彼女に適う日は来ない。昔から、女は男よりも痛みに強いと聞く。彼女はある意味で、おれよりもずっとずっと強かった。

おれが彼女を海軍に入れたのは、きっと正解でも間違いでもなかったのだろう。