疎まれた日




クラウディアには過去、一人の子どもがいた。
この事実を知るのは、自分と他の親しい人物のごく僅かである。

海軍に入る前、彼女は普通の町娘だった。自分がまだ将校になる前の若かった時、派遣された島が彼女の住むところだった。幼くして両親を亡くし少しばかりやんちゃが目立っていた彼女だったが、ある時、恋人との間にひとつの命を授かった。

「恋人にはもう言ったのか?」
「いいや、実はまだなんだ。妊娠が分かったのもついさっきのことだったから。」

そう言って目の前で照れくさそうに笑う彼女が、幸せであればいいと思っていた。
当時、彼女は19歳だった。




それから2年ほど、彼女が身篭ってからすぐ別の島に異動していたおれは、久しぶりに彼女の家を訪ねた。
彼女は、以前とは別人のようになっていた。
屍のようになった彼女の痩せ細った腕に抱かれていたのは、とうに亡骸となった赤ん坊。
恋人は、彼女が妊娠したと知るや否や、あっさりと彼女を置いて逃げ出したのだ。

虚ろな目でただただ赤ん坊を抱き締めるのを見かねて、おれはその後すぐに彼女を引き取った。






「声が聞こえるの。子どもの声が。笑ってたり、泣いてたり、怒ってたり、苦しげだったり。どんなに耳を塞いでも、それをすり抜けて私の中に響いてくる。」

自分の耳を塞ぎながら、クラウディアはそう言っていた。

追い詰められた彼女を一瞬でも一人きりにしたあの時の自分を、おれは今でも許せない。

ある日買い物から戻った時、彼女は自らの腹に、何度も包丁を突き刺していた。
すぐにやめさせて病院に担ぎあげたが、容赦のなかったその行為は彼女に深い傷痕を残すことになった。




彼女の言う声。それは、見聞色の覇気の覚醒を意味していた。
それに気づいたおれはある時、彼女にとある提案をした。

「クラウディア。お前、海軍に入らないか。」


彼女は22歳だった。