澱み泡



クラウディア大佐は、子どもが好きではないらしい。
強さと美しさを兼ね備えた大佐は、自分にも他人にも厳しいところがあるが、同時にそれらを気遣う心も持つ素晴らしい方である。しかしそれは、どうやら子どもには適応されていないように見えた。我々に対する厳しさそのものを子どもにも向けているというわけではない。
ただ、“優しくはない”のだ。




「気を抜くな!市民の保護と避難誘導が最優先だ!それを終えた者は私に続け!」

大佐の得物の二刀が閃光を吹くと、瞬く間に前線の敵が一掃された。
その凄まじさに目を側めていると、ふと視界に映った少女の姿。瓦礫に埋もれるようにして泣き喚くその子の元へ、一目散に駆け寄った。

怖かっただろう、もう大丈夫だよ。

避難途中に親とはぐれたのだろう。幸いにも大きな怪我は見つからなかった。服についた砂礫を払ってやりながら丁寧にその子を抱き上げると、いつの間にか背後に大佐がいた。

「大佐、この子は…」
「安全地帯まで逃がすぞ。私の後ろについてこい。」

子どもを一瞥し、そう言うや否や駆け出した。



避難所に着くと、家族を探す人や怪我人の治療に奔走する人々が行き交い溢れていた。
腕の中にいる少女がきょろきょろと辺りを見渡す。ここに来るまでに死体は見なかった。恐らく市民は全員無事であり、残らずここに避難できたことが確認出来る。この子の親もすぐに見つかるだろう。
早速母親を見つけたのだろう、遠くを見てあっと声を上げた少女を腕から降ろし、背中を支えてやる。母親に駆け寄ろうとした少女が、ぴたりと足を止めたかと思うとこちらを振り向いた。

「あの、か、海兵さん!助けてくれて、ありがとう…!」

真っ赤に泣き腫らした目をきらきらさせながら、そのコートの裾を掴もうと、少女の手が伸びる。
しかしそれよりも、寸分の差で大佐が身を引く方が速かった。

「……怪我がなくて何よりだ。」

くしゃりと再び泣き出しそうになった少女を放って、大佐はそのまま踵を返した。代わりにはならないが自分がその小さな頭を撫でてやり、それから後始末に足を向けた。

子どもと接する時の大佐が何を考えているのかは分からない。ただいつもと比べて僅かに怖い顔になるところまでは、何度か見た。その様子から、嫌いとまでは行かずとも、恐らく大佐は子どもが好きではないのだろうという推察をせざるを得なかった。

「敵船の乗員は残らず制圧しました!」
「ご苦労。避難所を中心に医療班を回せ。島の被害の度合いを見て救援物資を要請しろ。」