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『第二話』
 
雪が朝日を受けてキラキラと輝く。天候に恵まれた杉元一行は今日こそは兎を狩るぞと意気込み罠を仕掛けていく。
杉元とナマエも少しばかり手伝ってくくり罠を完成させると、アシリパはかねてより気になっていただろう事を口にした。

「ナマエ。お前は変な格好をしたシサムだな」
「シサム??」
「和人の事だよ。アイヌはみんな俺たち和人の事をシサムと呼ぶんだ」

杉元がナマエに丁寧に教えてやり、アシリパがこぼした様に変わった服装だと上から下まで不躾な視線を向けた。
目を覚まして直ぐに手渡した真剣を布に包んで襷の様にかけた姿は酷くアンバランスだ。

「確かに変わってるよな。どこから来たんだ?」
「え、何処からって言われても」

ナマエは自身の服装を改めて二人の発言に疑問を覚えた。何故ならば自分の服装は有名高校の制服ではないにしろ、シャツとスラックスなんて現代において珍しくもなんもないのだ。それを見慣れない服装と呼ぶ彼らは何者なのだろうか。

「・・・新潟ですが、実は、雪原にいた以前の記憶が曖昧で。自分の家も今までの出来事もはっきりしているのに、あそこにたどり着くまでの過程が思い出せないんです。」

ナマエの発言に杉元は偉く驚き、少しばかりの同情と疑念を抱いた。

「新潟って、遠いじゃないか!なんたってこんな所に」
「人攫いかもしれない。ナマエは本当に何も覚えていないのか?」

アシリパの大きな瞳に見つめられたナマエは迷いなく首を縦に振った。本当に心当たりがないのだ。自分は確かに故郷にある学校に通っていたはずなのに、それが何故こんな雪山で遭難しているのか。

「人攫いにしても、態々こんな所に置いていくはずがない」
「もしかしたらナマエは神隠しにあったのかもしれないな!」
「神隠し、あの行方不明になるとか言う?」

ナマエが胡散臭そうにアシリパに問うと彼女は大きな瞳を輝かせて大きく頷いた。

「そうだ、お前はきっと何か使命を受けてこの地にきたのだろう!昔ハポが話してくれた話にその様なことがあった!!」
「ええ〜?アシリパさんそれお伽噺でしょ〜?」
「うるさいぞ杉元!!私のハポが作り話をするとでも!?」

少しバカにした様にアシリパの頭を撫でる杉元を彼女は酷く憤慨した様子で彼の脛を力一杯蹴り飛ばした。

「いててて!アシリパさん痛い!!」

その様子を眺めていたナマエは不意に腹を抱えて笑った。二人はそんなナマエに驚いて不思議そうな眼差しを向けた。

「ふはっ!あはは!なんか、悩んでいるのがバカらしくなってきた!!」
「おいおい、いいかのい?割と重要な事だろ?」
「いいよ!きっとアシリパさんの言う通り使命があるんだ。そう思うことにする。そうすれば前を向いて歩けるから」

アシリパさんありがとう。そう微笑んでお礼を言ったナマエにアシリパは何処か誇らしそうに胸を反らすとムフンと鼻をならす。

「ナマエはそうして砕けた方がいい。堅苦しいのはもうやめろ。私のことも呼び捨てでいい」
「うん!アシリパ!佐一さんもありがとう!」



兎狩りを再開したアシリパ達だが、兎用に設置した罠に何故か人間が掛かっていることにナマエは震えた。

「二匹目!!」

狼狽するナマエを他所にアシリパと杉元は坊主頭の男の衣服を剥ぎ取ると枝にくくりつけて固定し、その男の体に描かれた模様を模写し始めた。

「え、これは一体」
「ナマエには伝えてなかったけど、俺たちがある目的で一緒に行動しているのは話したよな?」

少しだけ陰った瞳で語りかけられたナマエは動揺を押し殺す間も無く頷く。

「それは脱獄した囚人達の体に描かれた刺青なんだ。」
「その、刺青は何かの暗号?・・・例えば、埋蔵金の在り処とかの」

恐る恐る尋ねるナマエに杉元はああそうだと頷くとナマエの肩に両手を添えて諭す様に言う。

「軍人やこいつと同じ囚人が皆んなこの刺青を狙ってるんだ。そんな危険な事に知らないとはいえ巻き込んで悪いと思ってる」
「佐一さんは、アシリパは何の為に?悪い事する訳じゃないんでしょ?」

何処か懇願する様な瞳に杉元は少しの罪悪感を覚える。しかし眼前の少女を見つけるのが自分たちで良かったと心から思うのだ。もし、心ない、悪事に身を浸す奴らに見つけられていたら?刺青人皮を手に入れる為の道具に使われていたら?想像だけでも耐えられない。
杉元はまっすぐにナマエの瞳を見つめて言う。誓って悪事を働くつもりはないと。

「俺は治療費が必要なんだ。幼馴染の目を治すための金が。アシリパさんはオヤジさんの仇を取る為に俺に力を貸してくれてる」

そのまっすぐな瞳を見つめるナマエは強く頷いた。

「自分も、協力する。きっとそれが使命?ってやつなんだと思う。それに、佐一さんとアシリパしかいないんだ。いいでしょ?」
「いいのか?言いづらいが人が死ぬかもしれない。俺も、身を守る為に殺すかもしれない。それでもいいのか?」
「アシリパは自分より子供なのに覚悟してるんでしょ?だったら自分も腹くくるよ。恩を返したいんだ」

恩返し、させてくれるでしょ?
そういったナマエの顔はやはり死別した妹と瓜二つだった。杉元は軽く目頭を抑えると頷くのであった。



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