「無理です」

 返す言葉は決まっていた。逆に快い承諾がくるとでも思っていたのだろうか。
 言いたいことはたくさんあるが、「単刀直入」と言っておけば何でも了承されると思ったら大間違いだ。だから『なぜ?』と返されたときはさすがのわたしも混乱した。

「なぜって、なぜです? わたしはそういう訓練を積んできていません。サーヴァントの召喚なんてできない」
『その通り。あなたは一般人で、訓練を積んでいない。逆を言えば訓練を積んでいないだけで、魔術回路は存在している。無論、今はまだ眠った状態ではありますが』
「無茶です」
『魔術師の家系に生まれた者として、根源の渦に至ってみたいという気持ちはこれっぽっちもありませんか?』
「そういうこととは無縁に生きてきたのが一般人です」
『対策は施してあります。先程のお送りしたルーンストーン、今持っていますね?』
「ルーン?」
『刻まれたルーンを、左手の中指でゆっくりなぞってください』

 腹が立つほど人の話を聞かない男だ。だがわたしも完全に流されている。
 何に反射したのか、石から青い光が火花のように散った。手のひらに乗せたルーンストーンとやらは、無機物然とした見かけにそぐわず生まれたての小鳥みたいにあたたかい。
 まるで本当に生きているみたいだ。あたたかくて、あたたかくて、かすかに鼓動のような振動まで感じられる。そんなものが今わたしの手のひらにあるのだと思うと、どうしようもない愛しさが湧いてきてしまってだめだった。

「……わたしに何かあったら、兄のことよろしくお願いします」
「あなたに何かあったら俺の首も飛びます」

 ルーンストーンをゆっくりとなぞった。鈍い地響きのような痺れが身体中を駆けていく。痺れが痛みに変わり立っていられなくなったとき、強い光が視界を真っ白にした。思わず目を閉じる。光の攻撃からも何もかも、身体が悲鳴をあげている。

 次に目をあけるときには、もう何もかもが終わっていたし、始まってもいた。

「サーヴァント、ランサー。召喚に応じ参上した……って、なんだ? まだほんのガキじゃねえか」

 青い炎が揺れる。






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