「サーヴァント、ランサー。召喚に応じ参上した……って、なんだ? まだほんのガキじゃねえか」

 受話器が床に落ち、カツーンと電子機器特有の嫌な音が響いた。
 そのまま床に捨て置かれた受話器からは『無事召喚できたようですね』と男。『では、ここからが本題です』とさらに男。

『あなたには、そこのサーヴァントと契約、同時に契りを結んでもらいます』
「…………ちぎ、ハァ?」
『あ、やっと反応した』

 早急に受話器をたぐりよせ、耳に押しつける。

「何か言いましたよね! いま!」
『契約のことですか? 契りのことですか? それとも、』
「ち! ぎ! り!」
『はい。基本的にはメールとフィーメルの相互合意に基づいて成立し、互いに協力し扶助し合いながら健康で文化的な最低限度の生活を持続的に共有するという、』
「つまり?!」
『サーヴァントと恋をしていただきたい』
「コイ〜〜?!」
『ゆくゆくは婚姻、最終目標は子孫の繁栄』
「バカだ。時計塔バカだ。今すぐ兄を返せ! バカ!」
『意外とお口が悪いようで親近感が湧きました』

 ハッとしておそるおそる振り返る。今さっき召喚されたランサーは、特段何も気にしていない様子で槍の素振りを始めていた。(物が壊れかねないのでやめてほしい)

「……どういうことです。なんで召喚が成功したの? 契りって何?」
『必須事項だけ順を追って説明します。簡潔に。まず召喚における工程の8割は、事前にこちらで済ませておきました。残りの2割は……まあ後々お話できればと思いますが、我々の行った8割がランサーの血であり肉であるとするなら、あなたの行った2割がランサーの魂です』
「信じられない。というかそれ、もうわたしのサーヴァントじゃなくてあなた方のサーヴァントなんじゃないの?」
『まあそこらへんも追々ってことで。とにかくランサーはあなたをマスターだと認識しています。それがすべてです』
「……そのランサーなら、今後ろで花瓶を一つ割りました」
『狂化は入っていないはずですから、ただのヤンチャです。ちなみに今回の研究についても、ランサーはすでに把握しています』
「研究?」
『サーヴァントと人間の間に婚姻関係を結ばせ、人間と英霊を融合させたハイブリッド子孫繁栄を目指す研究です』
「聞いたことないんですけど」
『秘密裏に行っていましたから。しかし研究は今佳境に入り、調査、検証を十分に終え、実証の域にきています。今回、あなた方のケースが成功すれば魔術協会にとっても大きな利益となり、何より未来への遺産として雄飛することが約束される』
「そのモルモットがわたしってこと?」
『うーん、あえて弁解はしないことにします。ただ、誰よりも人間に近い魔術師が不可欠でした』

 こうして大した注意事項もないうちに電話は終わった。
ーー一応聞くけど、わたしは何をするべき? まさかこれから聖杯戦争なんて、
ーーはは、起こりませんよ。ただあなたは、ランサーと好きなように過ごしてくれればそれでいい。

 兄に連絡をしようと、再び受話器に手を伸ばしてやめた。なんとなく兄を頼ることに気後れした。
 そもそも兄が籍を置く時計塔から直々の指示だ。わたしがどんなクレームを入れたところで水の泡だろう。

「終わったか? マスター」

 背後からにょきりと顔をのぞいてきたのはランサーで、割れた花瓶の修復も隠蔽も諦めたのか、部屋の隅に放置されている。

「ランサー、さん。あの」
「さんってなんだ? ランサーでいい」
「ランサー」
「話は全部聞いてるぜ。まあまあ、そう気を張らさんな。気楽に行こうぜ、気楽に。な?」

 まずはゆっくり話でもしようと肩を抱かれ、食べかけのチーズケーキが待つテーブルへ戻る。
 「お、うまそう」と食べ途中のチーズケーキは、ひょいっとランサーの口へと消えていった。






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