twst/エース ヴィラン
エースと監督生



腕の中で猫みたいに大人しい監督生の、如何にも女らしい甘い匂いが鼻先を擽った。
顎下に触れる細い髪の感触が気持ちよくて頬ずりする。
ちらりと見えた、黒いまつ毛がはためいていて、男のそれとはどうも違うものらしかった。

柔らかくて、ぐずぐずに崩れそうなほどの身体を抱き込むと、どうしようもない優越感に満たされる。
この女は俺のものなんだぜ。
そう言って、この男の園である学園中を走り回ってやりたい気分にすらなる。

「エース」

甘ったれた声だった。
でも悪い気分じゃない。ふとした時に、この学園の生徒すらくらりとくるような毒舌を吐く口から出るとは、少しも考えつかない女の声。
きっと、彼氏にでもならなければ聞くことの叶わない声に、この先のことを考えながら小さい唇を啄んだ。

するならどこかな、俺の部屋は相部屋だから当然オンボロ寮だろうと検討をつける。10代の男なんてそんなものだ。

「ね、監督生、今度の休み暇?」
「デート?」
「そ、デートしよ」

いーよ、と耳元で囁かれて項がゾクゾクした。
存外悪い女である。

「デートいいけど、私あんまりお金ないよ?」
「学生のデートなんてそんなもんでしょ」
「んー、そうだけど、皆よりももっとさ、ね?」

暗に異世界からやってきたからだと告げられる。
確かに、監督生の生活は全てが学園長に握られていて、携帯端末だって学園長の不在のために与えられて初めて手にしたのだった。

「ま、ご飯くらいは奢ってあげるって」
「ほんと?やった」

こてりと頭が首元に擦り寄ってきた。
それにしても、身一つでこの学園にやって来たのならなにも先立つものがないのは当然だ。
─こいつ、学園を卒業したらどうするのかな。

ラウンジや先生の手伝いで小銭稼ぎをしているのは見ているけれど、身分証明も出来ないこの女は外部のもっと割のいいアルバイトだって軽率に出来やしない。

ふいに幼い頃、犬を飼いたいと両親に騒ぎ立てたことを思い出した。
結局、犬を飼うことはなかったけれど。
こんこんと父親に、生き物を飼うこと、世話をすることを説かれて、面倒になったせいだ。

こっそり監督生の顔を見ようとして、思いがけず彼女の肩に添えていた自分の指がビクリと反応した。
珍しい黒黒した目の玉が、ギョロりとこちらを見ていたからだ。

その目が実に理性的で、さっきまでデートについて語っていた年頃の女のそれでは無かった。

「エース」

俺の手をとって擦り寄ってくる。

ああ、しまったな。10代の俺に、人間の命を抱える覚悟なんて、無いというのに。

それでも、嫌な汗が吹き出しても、この女を突き飛ばす気にはならなかった。



ヴィラン
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