冬休みに入る直前の放課後。千波に連れられた先にあったのは、某カフェの新作フラペチーノで。購買のパンが余裕で複数買える金と引き換えに口にしたそれは、真っ先に甘ったるさが鼻についた。別に不味くて堪らないとは言わないが、かといって特段上手くもない。そんな味。一体幾つの上白糖が溶けているのやら……とにかく呆れ返るほどの甘さだ。
ただまあ、金を払った以上残す気もない。だからそのままストローを吸う。生クリームで白濁した液体を口に含みつつ、ふと横を一瞥すれば、目を輝かせている少女が視界に入った。嬉しそうにフラペチーノを飲む彼女の顔は、笑ってしまうほどだらしなく綻んでいる。随分とまあ、美味そうに啜っているものだ。ただ甘いだけの汁なのに。とは、流石に野暮なので言葉にはしない。
そんなドリンクを、地道に飲むこと数分。だんだん舌が甘味に慣れてきた頃、不意に隣から声がした。「これやっぱり美味しい! ねえ、雛妃もそう思う?」と、いつになく浮かれた声色で。横目で見れば、これまたはしゃいだような顔をした相手の姿がある。
正直言って、こんな物を飲むくらいなら購買でパンでも買った方が幾分かマシだと思う。味は値段相応だが、目の前のこれよりは腹の足しになるだろう。同じ飲み物で考えるにしても、それなら人間を直に絞って血を嚥下する方が余程美味だ。というか、何なら。
「……別に。千波のお弁当の方が美味いくらいやわ」
なんて、思ったことが口をついた。
相手に作らせる弁当なら、腹の足しになるし味もそこそこで、おまけに無償という三拍子が揃うものを。と、考えたところで。
「って、あ」
「へ……? あ、ありがとう……でいいの?」
しまった、と感じた。こんな素直な称賛を伝えてやるつもりではなかったのに。柄でもないことを宣ってしまった。やらかしたな、と顔を顰めつつ、適当に取り繕おうと少女の様子を伺う。てっきり困惑十割といった表情で戸惑っていると予想していたのだが。
「でもなんか……えへへ、ちょっと嬉しいかも」なんて、予想に反して当人は和かなはにかみ顔。その心底からの言葉と表情(であろう)が、何だかちょっと、いや、結構癪だ。完全に口を滑らせた自分のせい、とは承知の上で、気に食わない。人間風情に一人前の称賛をした自分も、それを素直に喜ぶ相手の間抜けさも。側から見れば理不尽極まりない苛立ちを誤魔化すように、少女の笑顔にデコピンを食らわせておく。即座に相手が悲鳴を上げた。
「痛っ! 急に何……⁉」
先程とは一転した、狼狽と何か言いたげな表情。やっぱり、こいつにはそっちの方がお似合いだ。見慣れているし違和感もない。
なぜ額を弾かれたのか分かっていないような顔色で、おでこをさする相手。彼女の文句を聞かないふりで、再びフラペチーノを吸った。心なしか、さっきより多少飲める味にも感じられたのは──きっと、少女を揶揄った愉快さが効いたのだろう。
『フタリブン・フラペチーノ』 了