「で、では俺の先攻で……っ。俺のターン、ドロー!」
カードを勢いよく引いた彼の姿を見ながら、己の手札を確認する。引きは悪くない様に思えるが、梨蘭のデッキは如何せん特殊だ。相手の出方を見て変えるしかない。故に、後攻であることになんの問題もないのだけれど。
どんな展開をどのようなデッキで行うのだろう、とじっと見つめて、男子生徒のその先を待つ。見られているから緊張しているのか、少しだけこわばった声で男子生徒は言った。
「も、モンスターをセット! ターンエンド!」
「ふむ」
ARヴィジョンに映し出されるカードが、裏面の模様だけをこちらに向けている。それだけを行って、男子生徒は自分のターンの終了を宣言した。
まさか事故か、と梨蘭の頭にはそんなことがよぎるが、すぐに思い直す。そんな考えは相手には失礼だし、それを理由に油断していい理由にもならないからだ。
ならば。
「私のターン、ドロー!」
デッキからカードを一枚取り、流れるように手札に加える。やることは決まった、とまっすぐ前を見つめる。
普段は美夜のデュエルを横で見ている事の方が多い。凌牙のストッパーをやることが多い。それは梨蘭が弱いからなどではなく、ただ傍観しているのが自分には合うと思っているからだ。表立って戦うのは自分じゃない方がいい。
だが、梨蘭は。
「……私は手札から《フィオーレ・ネーヴェ−オルテンシア》を通常召喚!」
☆2
ATK 1500
宣言しながらカードをデュエルディスクへセットする。現れたのは、紫陽花の花飾りをした少女のようなモンスターだった。ただし、その様相は冷たい=B
雪と氷を身にまとったその少女は、その見た目に違わず水属性だった。これは水属性デッキ使いの兄や姉に影響を受けたもので、兄と姉の背中を追いかけていたからこそのデッキだ。──すなわち。
「あのふたりの元で育った私が、弱くあってはならないんだよな」
「……? どうかしました、か?」
「いいや、ただの独り言だ。……バトル! 《オルテンシア》でセットモンスターを攻撃!!」
指さして、攻撃の宣言。呼応するようにオルテンシアは男子生徒のフィールドにセットされたカードへと氷の蔓を伸ばした。
蔓がカードを貫く直前、裏返る。現れたのは真っ白な毛に白い鎧、黄金の装飾を施された獣。それはオルテンシアの伸ばした氷の蔓をするりと避け、オルテンシアへ目掛けて飛びかかり、喰い殺そうと噛み付く。
梨蘭の顔から、血の気が引いた。
「……っ、ハンターか!」
「その通り! 《ライトロード・ハンター ライコウ》のリバース効果発動!!」
リバース効果とは、その名称の通り『裏側表示』で存在していたモンスターが、なんらかの要因で表側表示になった時に発動する効果のことを指す。
裏側守備表示のモンスターは攻撃される時、表側守備表示になる。たとえ守備力が攻撃モンスターよりも低かったとしても、破壊処理よりも先にリバース効果の処理が挟まるため、攻撃は成功し破壊される場合でもリバース効果は発動する。
そして、ライトロード・ハンター ライコウのリバース効果は。
「フィールド上のカードを一枚選択して破壊、その後自分はデッキの上から三枚を墓地に送ります!
……俺は、《フィオーレ・ネーヴェ−オルテンシア》を破壊します!」
「ちっ、やってくれる……」
「さらに! デッキから上三枚を墓地に送って……、今送られた《ライトロード・ビースト ウォルフ》の効果が発動します、《ライトロード・ビースト ウォルフ》を特殊召喚!」
☆4
ATK 2100
「……なるほど、ライトロード」
ぽつり、と言葉を落として思案する。
ライトロードには殆どのカードに共通する効果がある。それが「デッキの上からn枚カードを墓地に送る」というものだ。通常、墓地に行ったカードは、その『墓地』という名の通り、何もせずに手札に加えることなどはできない。それをなせるのは、一部のモンスター、魔法、罠の効果だけだろう。
しかし、このゲームにおいて『墓地』は大きな意味を持つ。なぜなら、膨大に存在するカードの中には墓地にカードが存在することで効果を発動するもの、墓地にカードが送られたことで効果が発動するものなど、墓地があって初めて意味を成すカードが多数存在しているからである。故に、墓地は俗に『第二のデッキ』と呼ばれるほど。
そして《ライトロード・ビースト ウォルフ》は『墓地に送られることによって効果を発動するモンスター』である。このカードは通常召喚出来ない、という制約を持つ代わりに、このカード自身がデッキから墓地に送られた時、特殊召喚することが出来る。それゆえか、その攻撃力は2100と、下級モンスターとしては頭がひとつ飛び抜けている。
「…………」
ライトロード・ハンター ライコウを破壊したのはいい。だがそのリバース効果によって梨蘭のフィールドのフィオーレ・ネーヴェ−オルテンシアまで破壊されたのは痛い。その上、相手フィールドには下級高火力モンスターが一体。
このまま放置しておくのは流石にな、と梨蘭はひとつ呟いて。
「ではバトルフェイズは終了しよう。……私は手札から、《フィオーレ・ネーヴェ−ガルデーニア》を永続魔法≠ニして発動する」
「なっ──!?」
梨蘭が指先に置いて見せたカードの淵の色は茶、即ちモンスターカードを表している──のだが。
梨蘭は何のためらいもなく、逡巡することもなく。至極当たり前かのように、そのカードを魔法・罠ゾーンへと設置した。セットされたデュエルディスクは、エラーを吐き出すことなくARヴィジョンにそのカードを映し出す。
「私の《フィオーレ・ネーヴェ》はモンスターを、その効果によって魔法カードとして発動することが出来るんだよ。
……では、私は今発動した《フィオーレ・ネーヴェ−ガルデーニア》の効果を発動する。このターン、破壊された《フィオーレ・ネーヴェ》が墓地に存在する時、デッキから一枚、破壊された《フィオーレ・ネーヴェ》モンスターを手札に加えることが出来る。私は《フィオーレ・ネーヴェ−オルテンシア》を手札に加えて──」
デッキから飛び出した一枚のカードを手に取り、笑った。
「《フィオーレ・ネーヴェ−オルテンシア》を、通常魔法として発動!!」
負けるつもりは無いのでね。
(私のデッキを初めて見た人はだいたいそんな反応をする)