「先攻はもらうよ。ドロー!」
美夜は自分の手札を見て暫し悩む。
この、デュエルというカードゲームは手札によってどう動くかが左右されるもので、美夜のデッキはそれが顕著に現れる。
よく言えば自由自在、ということなのだが、いかんせん扱いが難しい。
悩みに悩んで──とはいっても数秒の話である──、結果美夜はカードを一枚手に取った。
「ボクは手札から《ルーチェ・ステッラ ヴィルジネ》を通常召喚!」
☆1
ATK 100
ヴィジョンに現れたのは小さな竜を携えた乙女。
“乙女座”──ヴィルジネの名に相応しく、美しい様相をした乙女は、凛とした瞳で対戦相手である贄野を見つめる。
が、見つめられた贄野は。
「っは、攻撃力100のモンスターを攻撃表示で召喚だァ? お嬢ちゃん、お遊びをやってる訳じゃねえんだぜ?」
攻撃力100、という数字を見て、ヴィルジネを嘲笑う。それを聞き届けたらしいヴィルジネはムッとした顔を見せたが、それを見れるのは精霊が見える美夜だけなので、残念ながら贄野には届かない。
ぷく。頬を膨らませたヴィルジネは主にのみ聞こえる声で独りごちる。
『マスター、あの人ぶっとばしていいよね』
「ま、そう焦んないでよ。ボクはこれでターンエンド!」
誰に聞かれてもおかしくないであろう言葉を選んで美夜はターンエンドを宣言した。
周りからすれば贄野に向かっていった言葉に聞こえるだろうが、その実はヴィルジネに向けられた言葉だ。
贄野の言葉は、そもそも意に介していなかった。
「俺のターン、ドロー!
俺は《聖刻龍−トフェニドラゴン》を特殊召喚!」
「!」
☆6
ATK 2100
通常レベル5以上のカードはリリース──カードを墓地へ送る行為──を行わなければ通常召喚をすることはできない。
しかし、このトフェニドラゴンには「自分フィールドにモンスターが存在せず、なおかつ相手フィールドにモンスターがいるとき」にのみ、手札からリリースを必要としない特殊召喚を行うことができる。
特殊召喚は1ターン中何度でも行え、通常召喚とは違うため一度に大量のモンスター展開が可能である。
「トフェニをリリース! 《聖刻龍−アセトドラゴン》をアドバンス召喚!」
☆5
ATK 1900
「リリースされたトフェニの効果発動!
こいつはリリースされたとき、手札、デッキ、墓地からドラゴン族の通常モンスターを攻守0にして特殊召喚する!
俺はこの効果でデッキより《神龍の聖刻印》を特殊召喚!」
「ひゃー、回るねぇ」
☆8
DEF 0
なんとなく感嘆の息を漏らしてみる。聖刻テーマはその殆どが共通効果である「リリースされたとき手札、デッキ、墓地から通常ドラゴン族モンスターのATK及びDEFを0にして特殊召喚する」という効果を持っている。
この効果故に相当の事故を起こさない限り、すさまじい威力を発揮する。それがこの聖刻というカード群だった。
「さらにアセトの効果発動!
フィールドに存在するドラゴン族の通常モンスター一体を選択し、このターンフィールドに存在するすべての《聖刻》モンスターのレベルをそのモンスターと同じにする!
俺が選ぶのは、レベル8の《神龍の聖刻印》!」
この効果によってフィールドに存在するアセトのレベルは8になる。
何かを悟ったらしい美夜はそれをじっと見つめた後、にやりと口角を上げた。
「……ふーん。来る、かな」
「俺はレベル8の《神龍の聖刻印》と《聖刻龍−アセトドラゴンでオーバーレイ!!」
贄野が叫ぶ。二つのその龍は、贄野の声に反応するかのように、濃淡の違う二種類の黄色い光へと変わっていった。
渦へ導かれ、二つの光は混ざり合う。
「二体のモンスターでオーバーレイネットワークを構築、エクシーズ召喚!
舞い降りよ、聖なる刻印を統べし赤き龍!!」
光から現れたのは、一匹の生き物。
否、最初は生き物ですらなかった。光になった神龍の聖刻印そのものだった。現れたその瞬間は。
それが徐々に開いていき、形を作っていく。ARヴィジョンを介してドクンドクンと伝わるその確かな生≠ノ、美夜は思わずにやりと口角を上げた。
──これこそがデュエルだ。
「《聖刻神龍−エネアード》!!」
★8
ATK3000
光が完全に晴れ、その目に映ったのは神々しいまでの赤い躯体をした龍。それを目にした生徒たちの中には、一種の畏怖のような感情を感じたものもいるだろう。だが美夜は違った。
ぞくり。奮い立つ。この龍を倒したい、と、彼女を巡るデュエリストの血は、飢えていた。
赤き躯体を持つ龍
(強そうな奴は倒さなきゃ)(それがデュエリストってものだろう?)