義理チョコだって手を抜かない

「オービタル、カイトは?」
「カイト様ハ、ハルト様ト一緒に散歩中デアリマス!」


 ……その散歩についていかなかったオービタルは、たぶん仕事を任されてるんだろうなぁ。カイト、オービタルには厳しいし。
 今日くらいはカイトも休みをあげたらいいのにと心底思う。オービタルだってオボミちゃんと過ごしたいよねえ。

 苦笑いを浮かべてオービタルを見れば、私と話しているこの瞬間でも仕事は続いてるらしく、オービタルからはモーターがフル稼働している音が聞こえる。……仕方ないな。


「オービタル、書類どこ? 手伝う」
「エッ」
「カイト達を待ってる間暇だし、ね」


 いいでしょ? そう言ってみればオービタルが伸縮自在のアームで書類を取る。昔は私のことなんて認めなかったけれど、最近となっては私を頼ってくれることも多くなったな、オービタル。
 ソレデハ、オネガイシマス。了解。そんな言葉を交わしながら、オービタルより渡される資料を手に──あれ、資料が消えた。どこに行った、と探す前に目に映ったのは、焦ったような表情──顔はないけど──であたふたとするオービタル。
 あ、まずい。オービタルがこんなに焦ることなんてひとつしかない。恐る恐る後ろを振り返ってみれば、やっぱり……いた。


「か、カイト」
「……オービタル、いつ俺が名前を頼っていいと言った?」
「カイト様……ッ!!」


 いつも通りの無表情で、しかし確かに眉間に皺を寄せたカイトがそこに立っていた。これ、少なくとも機嫌のいい時の顔ではない。サァッと血の気が引いて行く気がした。
 怒られてるのは私じゃない。それはわかっているのだけれど、カイトの底冷えするような声がどうしても怖い。普段はいい人な分、特に。いや、普段から厳しいけれども!


「コレハソノ、名前ガドウシテモ手伝ワセロト……!」
「そ、そうなの、だからオービタルのことはあんまり怒らないであげて……ね?」
「……名前」


 はあぁ、と大きなため息とともにカイトの声のトーンが下がる。いや、あの、私は、よかれと思って。どこかのベクターじゃあないけど、オボミちゃんといっしょに過ごせないオービタルが可哀想だから、少しでも早く終わったらいいなって。
 そんな言い訳は喉を震わせる事もなく消えていく。ダークブルーの瞳が私の目を射抜いて、うぅ。


「オービタルを甘やかすなと再三言ったはずだが」
「き、今日1日くらいはいいでしょう……!?」


 そりゃ確かに、仕事の邪魔をしてしまったとかなら話は別だ。だけどそうじゃない、私はこれでも書類の整理だけは得意だ。それ以外は知らないけど。
 それに、それに今日はバレンタインデーだ。オービタルたちにチョコレート商戦に参戦する意識があるかどうかは知らないけれど、今日くらいは彼らが一緒にいたっていいじゃないか。そんなことを思って、手伝おうとしただけなのに!

 がるるるる、とカイトを牽制してみるも彼は絶対零度の視線を溶かさない。ごめんオービタル、私じゃ君の力になれないみたいだ。
 がっくりと肩を落とせば、カイトの膝くらいに揺れる水色を見つける。見慣れた色だ、だってこれはカイトの弟、ハルトのものなのだから。


「こんにちは名前!」
「こんにちはハルトー、ねえ言ってやってよカイトの石頭にさー」
「貴様……」


 ねー? と聞いてみればハルトから苦笑いが返ってきた。ハルトもそう思ってるんだな、でもカイトを傷つけないためにこんな曖昧な返事なんだろうな。そう思うとハルトも実は隠れブラコンなんじゃないかなぁって。言ったらまたややこしくなるだろうから言わないけれど。
 と、ハルトの顔を見て思い出した。今日ここにきたのはなにもオービタルの手伝いをするためだけではないのだ。


「はいハルト、ハッピーバレンタイン」


 足元に置いてあったカバンからラッピングされた包みを取り出す。ハルトの髪色と同じ色をしたそれをハルトに渡せば、ハルトの表情がパアッと明るくなった。
 一瞬、カイトの表情が強張った気はするけど、……気のせいだと信じておく。


「わ、すごい、これもしかして名前の手作り?」


 とても綺麗な眼差しで問われたので頷いておく。嘘は言っていないし、多くを語るつもりもないからこれでいいだろう。
 じぃ、とカイトがハルトに渡したラッピングを見ている。もしかしてカイトも欲しかいのかな、なんてイマイチ的外れなことを考えていると、カイトがゆっくりと口を開いた。


「……本命か?」
「んなわけあるか」


 もしもそうだとしたら事案だ。
 私はカイトと同い年で、つまりそれはハルトとはかなり歳が離れているということになる。歳の差恋愛とか最近は流行っているが、それはもっと歳を召した方々がするものであって、私がそんなことをすればただのショタコンだ。確かにハルトは好きだけどそういうことではない。
 なんでそうなったんだ、と思ってカイトを見れば、彼はオービタルから奪った手元の書類に視線を落としつつ答える。


「やたらと気合が入っていたからな。……オービタル、これはもういい。……今日の仕事は終わりだ、あとは好きにしろ」
「カシコマリッ!」
「ああ、そういうこと」


 確かに、ハルトに渡したものは他の義理チョコ──遊馬や凌牙に渡したものよりは気合を入れてラッピングした。だからと言ってそこまで発想が飛躍するとは、思いもしなかったけれど。
 やれやれ、まさかそんな勘違いをされるとは。なんだか微妙な気持ちを抱えつつ、カイト用の包みも出す。ハルトに渡したものの色違い──こっちはカイトの髪の毛、黄色だ──たるそれは、ハルトのものと見比べても遜色ない。


「そりゃ、好きな人の弟にあげるものですもん。気合は入れたくもなるよ、乱雑なものなんて見せたくない」
「……ば、」
「安心して、中身の愛情で本命と義理の差はついてるから」
「……この上ない口説き文句だな、どこでそんなものを覚えてきた」


 さて、誰に教えてもらったんでしょうねえ?
 どこぞのファンサービス精神を持った極東エリアのデュエルチャンピオンの口調を真似てみれば、カイトは呆れたような、それでいて何処か優しげな笑顔を浮かべて私の本命チョコを受け取った。



義理チョコだって手は抜かない
(これぞ、The・女子力)(好きな人に見せる私は、一番可愛い姿でありたいもの)


Title...ポケットに拳銃
2015.06.16 執筆
僕らが生きた世界。