私は「僕」の手をとる

「名前、退院おめでとう」


 十六夜アキがにっこりと名前に話しかける。対して『僕』は何故だか怖じ気づいてしまっていた。

 あの日──私が名前の見舞いに行った日から、1週間が経った。
 晴れて両想いとやらになった我々だったが、名前はつい先日まで入院していたわけで、私は勿論『僕』も、恋人らしきことは何一つとして行っていない。
 ……毎日見舞いには訪れたのだが。まぁ、それは恋人でなくてもするものはいるだろう。

 そんなこんなで、1週間。
 晴れて名前は退院し、今、名前の退院パーティに至るというわけだ。
 人気者な彼女を待っていたのは私や『僕』だけではなくて、前述した通りアキは勿論のこと、彼女に恐らく──絶対に──想いを寄せてる遊星たちも、名前に嬉々として話しかけている。
 対して『僕』はその雰囲気に圧倒され、名前に話しかけることすら儘ならない。何度か話しかけようと、試みているのだが──


「た、退院おめで──」
「しかしまぁ、すぐ退院出来てよかったよなー!」
「おめ──」
「まったくだ、名前がいないと貴様らの士気に関わる」
「お──」
「とかいって一番そわそわしてたのお前だろーがジャック!!」


 ……とまぁ、こんな風に挑んでみては撃沈している。
 もっとどうにかならないものか、と思ってみても『僕』にそんな勇気はないようで。


(……どうしよう、『私』)


 ……どうしようも何もないだろう。
 もっとアプローチが必要だろうに、なんて私の考えを伝えたところで実行できる筈はない。
 とかなんとかしていると、『僕』から大きめのため息がひとつ。


(このままじゃ、名前に呆れられる……!)


 ……何故そんな短絡的思考になったんだ。
 疑問を投げ掛けてみれば、精神内で『僕』が捲し立てるように言った。


(だって! 僕がこんなに話しかけられないんだから、名前楽しくないじゃん!!
 このままじゃ「ブルーノといてもつまらない」なんて言われるよ!? 付き合って1週間で破局だよ、早すぎるよ!!)


 ……君、記憶喪失──私もだが──なのに、そんな情報を仕入れてきたんだ?
 時折私は『僕』のことが解らなくなる。まったく、どうしたものか。
 とは言っても、『僕』が言うことにまったくの反対なわけではない。むしろ、少しわかるところもあるから、困ったものである。

 ……仕方ないな、少し体を貸してくれ。


(……え?)


 精神内の『僕』の手をとって、中に引きずり込む。代わりに私が表層意識へと飛び出した。


 目の前が明らむ。見えてきたのは、楽しげなパーティ風景。
 その中心にいるのは間違いなく、名前。入院中とは違う、とても元気でハキハキとした彼女。

 ……こんなの見ていると、告白されたのが嘘のようにすら思えるな。
 でも、間違いなく、名前は私『達』の彼女だ。遊星のことは仲間だが、……それだけは譲らない。

 少し、見せつけてやろうか? なんて、意地悪な考えが浮かんできた。


「名前」
「あ、ブルー──」


 ぱっと笑顔で私──というよりは『僕』だろうか──を見た名前。
 人前でするのは少々気が引けるが、名前の手を思い切り引いて──


「わ……!?」
「ブルーノ!?」


 キツく、だが苦しくないように、抱き締めた。急なことで、名前は腕の中で一瞬暴れたが、すぐに私の中に収まった。
 小さいな、思ったより。


「こらてめぇ、ブルーノ何してやがる!!」
「ぶ、ブルーノ?」


 クロウが騒いでるな。……私には関係ない。
 名前は、我々の彼女だろう?
君たちに言われる筋合いは、何処にもないのだから。


「ど、どうしちゃったの?」


 ちいさく、「アンチノミー?」なんて聞かれる辺り、名前はなんでもわかっているようだ。
 名前の耳元に口を寄せて、私は言った。


「少しだけ……妬いた」
「! ……ふふ」


 それを伝えれば、名前は私の背に手を回す。
 ほら、少し伝えるだけで結果は変わるだろう?


(……あはは、完敗だよ、『僕』)



私は「僕」と手をとる
(ブルーノお前……!?)(……彼女に手を出してなにが悪いんだい?)(キャラ違くね!?)




title…Cock Ro:bin
2015.06.12 加筆修正
僕らが生きた世界。