「……太! ブン太! 起きて!」 「んあ〜……? 何だようるせーな……寝かせろよ……」 「寝てる場合じゃないのよ! 周り見てよ!」 ブン太は無理やりに起こされた所為か機嫌が悪い。悪態をついて、もう一度布団をかぶり眠りにつこうとしたが、目が覚めている杏はそれを引き止める。彼女はひどく慌てていた。ブン太はまだその様子に気付かないようで、寝癖のついた頭をかきながらそれに答える。 「……見た」 「だから! ここは学校の敷地内の病院よ! 私たち、脱走できなかったのよ!」 あくびをしながら聞いていたブン太は、その言葉で目が覚めたようだった。あくびを途中で止め、周囲を見渡す。確かに彼もここは知っている。怪我が多かったブン太は、何度もここに来たことがあったからだ。 「……な、何で?」 「わかんない。気付いたらここにいたの」 杏は首を横に振る。ブン太は何も言えなくなってしまった。今分かってることはただ一つ。脱走に失敗したと言うことだ。 そこではっと気付いたようで、ブン太は杏に訊ねる。 「あ、そうだ! めぐみは? 雅治とジローも!」 「……めぐみは脱走しなかったじゃない」 「あ、そっか。そうだったっけ……」 こんなときでもめぐみのことを考えているなんて。杏はブン太の言葉に呆れながらも、可笑しくて笑ってしまった。ブン太は杏の笑っている理由に気付いたのか、少し顔が赤くなる。「何だよ」とぶっきらぼうに言ってそっぽを向く。笑いながら杏は続ける。 「ごめんごめん。……ジローならそこで寝てる。ね、ブン太起こしてよ」 「えー? だってこいつ寝起き悪ぃじゃん! 俺無理!」 「私だって無理よ!」 「俺も無理だってば!」 だんだんと口調が強くなっていく。口だけでは決まらないと杏は判断したのか、グーに握った片手を振り上げる。ブン太は条件反射で身構える。 「何でよ! じゃんけんしようって言ってるんじゃない!」 杏が更に強い口調で言うとブン太は意味を理解したらしい。大きくうなずいて手をぽんと叩く。 「てか、じゃんけんならじゃんけんって言えっつーの!」 「私がそんなに乱暴な女に見えんの!? ちょっと!」 「痛っ! そういうところが乱暴なんだよ!」 杏がブン太に殴りかかる。女の子とはいえ中々に痛かったらしく、ブン太は蹴られた所をさする。結局それで決着がついたことになった。 ブン太はジローの鼻と口を手で押さえる。少しの間そのままにしていると、ジローが苦しそうにもがいたが、それでもブン太は押さえ続ける。 もう限界かという頃合いでブン太は手を離した。ジローはむくりと起き上がり笑顔で言う。 「……おはよう!」 「……ちょ、ちょっと乱暴じゃないの! いつもそうやってんの!? 信じらんない!」 ハラハラしながら見ていた杏はブン太に抗議するが、ジローはなんてことないようできょとんとしていた。「乱暴なのはどっちだよ」とブン太は思ったが口には出さないでおいた。 「で? あと雅治だけだけど、どこにいんの?」 唐突にブン太が切り出す。杏はまた首を横に振る。 「……いない」 「はぁ?」 「いなかった。姿が見えないし、ここにいた形跡もないの」 その言葉を聞いてブン太は周囲をまた見渡したが、確かに形跡も気配もない。ブン太はだんだんと不安になる。もしかしたら雅治も精市同様、行方不明になっていたとしたら。 精市だって生きているかも分からないのに。 と、そこまで考えて慌てて否定する。「そんなわけない」と自分に言い聞かせる。 「よし! じゃあ雅治を探しに行こうぜ! そんで、今度こそ逃げるぞ!」 ブン太が意気込む。杏とジローも彼につられてやる気を取り戻したようだった。大きく頷いて三人で部屋を抜け出した。 ← → TOP |