まだまだ諦める気の無い自分に溜息ヒトツ
今朝、ジャンニーニが扉のひとつがどうやらハッキングしてこじ開けられたらしい、と物騒な報告をして来たことが始まりだった。敵が攻めこんできた様子も、気配もない。獄寺くんが周辺を見に行ってくれているが、リングの反応もない。
一体、何が。
『動かないで。』
静かに、それでいて通った声が胸にすとん、と落ちてきた。聞き覚えのある、声。見覚えのある姿。
「北山…?」
『ごめんね、沢田。』
「え、ど、」
どういう、こと?
「10代目!?…んな!?…北山てめぇ!」
『ごめんね、さよなら。』
パァン、と発砲音が鳴り響いても衝撃も、痛みも、何もなかった。と、いうか。発砲音は北山の口からでた言葉だったし。
「ええ?」
『ふ、あはは!ごめんごめん。怖かった?』
獄寺君のダイナマイトをさらりとかわしながら、腹を抱えて笑う姿に、またか、と頭を抱えたくなった。
「北山…せめて来るときは連絡してくれよ…。」
『急遽決まったし、それに、貴方の同級生として遊びに来たんだよ。』
「お怪我はございませんか10代目!?
お前…冗談とはいえ10代目に何を向けて…。」
『水鉄砲だよ。ほれ、』
「うわっ、てめっ!」
無邪気に笑う北山に、どこか違和感を覚える。そして、なんとなく、予感がした。
「ヴァリアーで、何かあったんだね。」
『嫌だなぁ、その超直感。一泊だけ泊めてよ。
それから、あいつらには連絡しないで。』
「…うん、分かった。」
あ、これ。下手すればXANXUSに嫌味の1つは言われるかもしれない。乗り込んできて基地をめちゃくちゃにされるのは嫌だな。
けれど、珍しく、ヴァリアーではなく同級生として遊びに、と言ってくれたから。
すこしくらいはいいじゃないか。
彼女も、きっと色々と思うことがあったんだろう。
溜め込んでしまう、彼女だから。
03.決断
包丁なんて握るの、いつぶりだろうか。
「そうです、そこを、…上手です!」
『ありがとー。…へぇ、あいつらのご飯作ってるんだ。』
「うん。ツナくんたち、今色々とあるみたいで。」
『仕事のほうで?』
「そう。詳しくは聞かないことにしてるの。」
『その方がいいよ。』
トントンと、リズミカルな音を鳴らしながら作るのはカレー。わたしの役割は切っていくだけ。けれど、量が恐ろしい。何人前なんだってぐらい。
「北山さんは向こうでご飯とか、どうしてるの?」
『んー、お抱えのシェフがいてさ。その人たちがしてくれる。』
「はひぃーお金持ちなんですね…。」
『お金持ち…、そっか、そうだよね。』
当たり前になりすぎていて、忘れていた。
荷物である自分が、当たり前だって。ろくに鍛えもしない、ただ任務について行くだけ。そりゃあ、ベルも思うこと、たくさんあるか。
「澪ちゃん?」
『ううん、なんでもない。』
明日帰ろう。
それで、怒られても、ごめんって一言だけ言おう。
スクアーロは、許してあげない。
「あ!カレーのルーを買い忘れてます…。」
『なら私いこうか?』
「時間あるし、皆で行かない?ほら、せっかく北山さん居るならケーキとか買っちゃおうよ。」
「ナイスアイディアです!」
あとは煮るだけ。
誰かと、こんな風に一緒に何かをすることが楽しくて。
油断してしまったんだ。
二人と地上に出て、スーパーやナミモリーヌに買い物に行くことでさえも楽しかったから。
だから。
「はひっ!?な、なんですかあなた達…!」
ワゴン車から出てきた男は4人。術士らしき男が運転席に座っている。私が今持っているのは、護身用の銃とベルのナイフくらい。
銃口を向けられるまで気が付かなかったなんて。平和ボケしたか、この日本で。この、逃走劇で。
「大人しくすれば危害は与えない。車に乗れ。」
どっちだ。
ヴァリアーに、きた刺客なのか。
それとも、10代目ファミリーなのか。
「き、京子ちゃん…!」
「ハルちゃん!」
二人を抱えて、この場を脱するには力不足な自分が情けない。
ゆっくりと、手をあげた。
『分かったから、そんな物騒な物は向けないで。』
乱暴にも、荒々しく捕まれた腕を後ろで拘束し、車に連れ込まれる。荷物のように、投げ入れられた自分が、ベルに言われた文字通りの荷物になったみたいで悔しさ胸を占めた。
「わ、わたしたち…どうなるんでしょうか…。」
『大丈夫、死なないよ。』
どこに連れていかれるかは分からない。けれど、個々の力量は低い。焦らず、じっくり、確実に行こう。
(ええ?澪はもう居ないの?)
(はい…昨夜、日本に行く、と。)
(んもぉ、タイミング悪いわねぇ。)
(ねぇ、澪ちゃん日本に向かったらしいのよー)
(あんのクソ女!!今沢田から、あいつが拉致られたっつーのがきた!今すぐ手が空いてるカスは日本に向かえぇ゙!!)
(…本当に人使い荒いわね。)
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