少しの間だけでいいから騙されててね。
「状況は?」
「それが、全く…。」
「くそっ!」
時間になっても現れない彼女達。その事態に気付いたのは、映像に拉致された瞬間がうつってから4時間も後のことだった。
「落ち着け、ツナ。幸いにも澪が一緒にいる。
あいつならなんとか上手いことしてくれてるだろ。」
「何でそんなこと言えるんだよ、リボーン!」
「情けねぇ声出すんじゃねぇ。
あいつはXANXUSが認めたヴァリアーの幹部だろ。ちったぁ信じろ。」
信じろ、そう言われても彼女の事を、知らない。
一緒に戦ったことも、彼女が目の前で戦っている姿も見たことはない。
「腕っぷしの強さだけで判断したらダメだぞ。
それより、ヴァリアーにも聞いてみろ。案外、あいつらの方が澪を見つけるのは出来るかもしれねぇ。」
“あいつらには、連絡しないで。”
彼女のそんな願い、けれど、今は非常事態だから。
“弱者は消すの、私、消されちゃう。”
通信機に伸びた手が、止まった。
“その、リングを巡った戦いでさ。私、ルッスーリアに制裁をした。そんなこと、忘れちゃダメだったのに。何でもない顔で彼女と話してさ。それをベルに指摘されて。余裕なくなって。”
今朝、彼女が溢した弱さを、このタイミングで拾ってしまうなんて。
オレは一体、どうすればいい。
「ツナ?」
「10代目!通信が入りました!
このコードは…ボンゴレのものですね。ええと、」
「ヴァリアーだ。…うん、繋いで、ジャンニーニ!」
なんとなくの、予想。
「え、あ、はい!…繋ぎました。」
「もしもし?」
確かに、通信機が切り替わる音がしたのに反応はない。おかしいな、てっきりスクアーロかとおもって耳を身構えたつもりではいたけれど。
「えっと、ヴァリアー…じゃない、かな?」
<…澪は?>
「え?」
<澪に代われ。>
「XANXUS…?」
予想していなかった相手に頭が真っ白になる。まさか、あのXANXUSが、彼女に直接───
“ヴァリアーに弱者はいらないから”
「…!
XANXUS、ごめん!オレの不注意でいま北山は、その、連れ去られて…。だから、これはオレの責任って、いうか…」
<…あのドカス。…おい、てめぇじゃ話にならねぇ。用件まとめてからかけ直せ。>
「え、あ、う、うん!」
怒り、ではない。
あの声色は…呆れているだけ?
「10代目ー!
奴等の居場所がわかりました!北山のリング反応をキャッチしたみたいです。警戒しているのか一瞬だけでしたけれど…。リングの精度、属性からみて北山のものかと…。」
「分かった、…行こう!」
北山、大丈夫だよ。
弱者、なんて、だれも思ってない。
…京子ちゃんとハルを、頼む。
04.思考
目隠しもせず、後手の拘束だけで山奥の施設に連れて行かれたものの、監視は一人。人の気配はするけれど、これほど、私にもわかるほどの奴等なら厄介な相手ではない。
ぶつぶつと、独り言は端から見ると物騒な限り。
「ボンゴレの、何が、…偉い?」
『何、恨みでもあるの?』
「うるせぇ!」
「キャア!」
殴られたものの、これならどこぞの鮫のほうが痛いね。ああ、でも。あの鮫のが引き摺っているのか、痛い。ズキズキと熱をもって。脈打つように痛みが襲う。
『…ひっどいなぁ。』
「お前に、何が分かる。」
『分かるように、話してみてよ。見ての通り、暇なんだよ。私。』
日本人、ボンゴレ、ならばこれは沢田のお客様か。
まずは引き出そう。それから、居場所を知らせないとね。匣兵器を使おうか。…あ、だめだ。隊服のポケットか。んー、指輪ならある。けれど、レーダー反応するかな。
『ボンゴレ、ね。ボスが代わってから、制度も大きく変わった。私も、仕事の愚痴ならあるよ。』
「…沢田、綱吉は…」
ぽつり、と溢した言葉に思わず上がった口角
よかった。そこまで彼等は思慮深くない。
なにか、ボンゴレに言いたいことがあるんでしょう?沢田のことだから、何か彼らにしたとしても優しいやり方なんだろう。
殴ったのは許さないけれど。
『ふーん、つまり。沢田が大きくなりすぎたからって、ボンゴレ傘下を減らしてるんだ。よかったじゃん。支配されずに済んで。』
「違う!今まで、ボンゴレの名があれば何をするにも価値はある!だが、今は…。」
『同盟に切り替えればいいのに。』
「あの、ボンゴレと同等に立つだと?それこそ、」
『沢田は規模とかじゃないんだよ。』
大きくなりすぎたから、傘下を解放しているんだよね。彼が目指すボンゴレは、そんな大きな組織じゃない。自警団、それこそ、T世の時代のように。
『話、通すよ、沢田に。…だから、彼女達はとりあえず解放してくれないかな。慣れてないんだよ、こういうの。ひとり居れば充分。それに、ほら。』
窓の外を、と顎で示せば分かったんだろう。彼等が来たことが。
「ひっ、ボ、ボンゴレ…なんでここが…。」
『彼女達を解放したら、私が貴方の仲間誰ひとり殺さずに話し合いの場をもうけるって約束する。』
ベルのナイフで両手の拘束をほどいて。指輪を渡す。そこに描かれた紋章に目を見開き、銃を構え直す男の腕を掴んで背負い投げを。
バーカ。流石に隙見せすぎ。
「す、凄い…。」
どこが。腰、いかれたよ。痛い。こんなの端から見たら怒鳴られるね。型がなってないとか。
『ごめんね、首の後ろを叩けば気絶するらしいんだけど。私、それ、出来ないの。』
だから、動けないようにします。
右足に1発。太ももに穴を開けて呻き声をあげる男を一瞥して転がった指輪を拾う。ヴァリアーってのは、やっぱりどこでも知っている組織なんだね。
指輪をゆびにはめながら、二人を解放しないと、と振り返る。
『…あ。』
怯えた二つの双眼が、こちらを見ていた。
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