どこまでも一直線なライン





ケンカについては一切触れず、ベルとはここ数日の話をした。仕事がたまっているだの、探しに行けば私はもう別の場所にいってるとか。


「明日の朝には帰ろーぜ、一泊くらいオレもしてーし。」

『あんな庶民臭いところで寝るのは嫌とか言ってなかったっけ?』

「バーカ、合わしてやってんだよ。お前がまた逃げたらめんどくせぇし。って、めんどくせぇの来てるな。」

『え?』


日付が変わるくらいに基地へ戻ると、あまり会いたくない人が談話室のようなフリースペースにいた。山本と、それから沢田。奥には獄寺とリボーンが。どうやら、スクアーロのイタリア土産を食べているらしく、獄寺とリボーンはイタリアについて、懐かしむように話しているみたい。


「あ、お帰り。…スクアーロが、迎えに来たって。」

『別に、迎えられなくても、帰るのに。朝一で帰るらしいから、もう、寝る。』


それだけで、部屋へ行こうとしたら呼び止められた。もちろん、スクアーロに。廊下に出る扉の前で振り返ると、横目で、腕を組み、こちらをじっと見ていた。


『…なに?』

「今日は、クソみてぇな1日だったらしいな。」

『だから?』

「てめぇの動きは、今日の働きは、ヴァリアーとしての、働きになる。」

『…要領が悪い?それとも、人質になる時点で恥?何、言いたいことあるなら言えよ。でも、短くね。悪いけど、そんなに暇じゃないから。私。』

「ちょ、ちょっと落ち着いて…。スクアーロ、別に北山は何も悪くないし。」


椅子から立ち上がり、こちらをまっすぐと向いたスクアーロは、遠回しに沢田に黙れ。と言うようだった。


「ヴァリアーに、弱者は要らねぇ゙。てめぇがヴァリアーとしての最低限の力量を持っているのは認める。」

『何が言いたいの。』

「てめぇが、XANXUSに認められ、実績もあるから幹部の座を与えられた。それなのにも関わらず、一般人の前でしなくてもいい武力行使は、ヴァリアーの顔に泥を塗ったんだぁ゙。」

『しなくてもいい?あの時は、!』

「するなら殺せ。生かしておくなら、あれはやりすぎだ。てめぇの、中途半端な姿勢が招いた結果だ。」

「もーいいんじゃねーの?寝よーぜ。つーか、こいつがしくじろうがあんま興味ねーよ。」


ベルは、めんどくさそうにしながらもこの話を終わらせようとした。居心地が悪そうな沢田も山本も、みんな出ていっていーよ。


「興味はねぇな。
てめぇが、どんなやり方で敵と殺り合うのかどうか、なんざ、興味はねぇ。」

『だったら!』

「ただ、それでてめぇがヴァリアーの、XANXUSの評価を下げるなら見過ごせねぇ。」

『ゆりかごを起こしておいて?指輪の争奪戦だって、卑怯な真似をしておいて!?それで私に評価とかっ…』

「うお゙ぉ゙い!!それ以上言うならカッ捌く。」

「落ち着けって、マジで。こいつらの前で話すよーなことじゃねぇし。評価とかじゃねぇっしょ。スクアーロが言いたいこと。それに、お前もちょっと言葉選べっつーか、」

『…私に、何を求めてるの?』


人殺しもろくにできない、マフィアとしては半人前。事務作業として?


「…何も、求めちゃいねぇ、なぁ。」


自分でも、分かっていた答えのはずなのに。なのに、凄く悲しくて、悔しくて。泣いたら負けだと分かっているのに。それなのに流れた涙は熱かった。


「てめぇが、人を殺せねぇとか、中途半端なことしか出来ない。そんなんは興味ねぇ。ただ、ヴァリアーに、XANXUSに泥を塗るなら話は別だぁ。」

『じゃあ、』


涙は止まった、そして、喉があつくて、なにかが詰まるような、それでも言いたくて。このまま、言い負かされたくない、って、下らないプライドで。


『だったら、そんな、心配させないようにする。
辞めればいいんでしょう?ヴァリアーを、殺す?追い出す?好きにして。あの時から、あんた達に殺される覚悟は出来てる!』


吐き捨てるようにして外へ飛び出した。
来た道を、まっすぐと走る。基地からも飛び出して、誰もいないところまでいきたかった。ふと、頭によぎった神社。いつもなら、あんな階段上りたくはないのに、なぜか走り続けて、階段も何段も飛ばして駆け上がった。

階段を登りきって、街を見下ろすと溢れだした涙。これは、きっと目を開けていたから。寒空を、走って、ずっと、目を、


『ああ…もう。』


バカなのかな。私。

ヴァリアーを、辞める。
そんなこと、考えたことが1度もないことは、なかった。
言葉に出したのは、初めてだ。それも、スクアーロに。そう、冷めてきた頭で考えると、心に重くのし掛かる、何か。
ヴァリアーとして、辛いと感じることは何度もあった。
人を裏切ると言うこと、幹部と言う肩書きに押し潰されそうなこと、部下が、私より先を行き、私の仕事をしてくれること。皆、私にはしなくていいよって、甘えをくれる。だから、裏方に回った。書類整理、本部との会議、営業みたいなことだって、皆がしないからって理由付けてやった。
すると、私にも居場所ができたみたいで。
少し、私が休むと書類がたまったり。そんな話を聞くと『私、ここで私の仕事が出来ている』なんて思い込んじゃって。

だから、辞めたくもない。お金なんて要らない。


「へぇ、真夜中に、子供が彷徨いているなんて聞いたから来てみたけど」


その声に、驚いて銃を向けた。
するとあせる様子もなく、持っていた懐中電灯でこちらを照らした。


「居たのは、弱った草食動物だ。」

『雲雀?』

「さっさと帰りなよ、君に手を出したら面倒だ。」

『関係ないよ、だって、もう、辞めたし。』

「…いつかの、沢田綱吉を思い出す。」


沢田?


「来なよ、そこで野垂れ死にたいなら別だけど。」

『え、あっ待って。』


どうしてかな、彼になら。今、みっともないけれどすべてが話せそうな気がしたんだ。





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