大事にしたって仕方ないじゃない





ヘリの時間になっても、彼らは来なかった。あれほど、仕事だ、任務だ。さっさと北山を連れて帰る!と喚いていたのにも関わらず。


「獄寺君!ヴァリアーどこ行っちゃったのか知らない?」

「ええ?もうあいつら帰るんじゃ、」

「それが居なくなってて。」

「ツナさーん!大変です!」

「ハル!?」


洗濯物を溢しながらこちらに走ってきた彼女は、涙目になりながら駆けつけてくるものだから、少しドキッとしてしま、ってイヤイヤ、今そんな場合じゃない!


「北山さんが!」


伝えられたこと、それは、北山が銀髪のお兄さんに虐められているとか。まさか、まさかまさかまさか!


「スクアーロ!」


炎を両拳に灯して、先を見据えた。水浸しになっている廊下に、ゆらり、と揺れる紫色をまとった狼。そして、荒い呼吸をしながら、スクアーロの死界で腹からながれる血を押さえながら、こちらに向かって中指をたてて『邪魔するな』と話す。


「あー、今は介入しねーほうが良いぜ。」


水のかからない場所に彼はいた。面白そうに、北山が今にも殺されてしまいそうなのに。


「どう、して。」

「先に仕掛けたのは澪だから。」

「なんで!?」

「んー、イライラしたんじゃねーの?アイツ。」

「だからって、北山がスクアーロに敵うわけがない。」

「っしし、そーでもねーよ。」


からかうような軽い笑いを浮かべる。スクアーロの強さは、そりゃもちろんリングのときだって、未来のときだって。いつだって見てきた。ヴァリアーのナンバー2だということも。


「まぁ見てろよ。…っつっても、負けるのは澪なんだけど。」


北山は炎を最大限に出力して、XANXUSのように持っていた銃に込めていた。両手を下に、双銃を下に。風がふんわりと彼女の髪を浮かせる。そこから覗く目は、力強くて。恐怖なんてものは浮かべちゃいない。あの目は、


「雲雀、さん?」

「あいつ、すぐ真似するんだよね。自分の型なんかねーわけ。だから、見切る早さも、真似をすることも。それだけはオレらレベル。」


水飛沫が上がる。北山はいったい何を?
スクアーロが、 北山の構えを見て不敵に笑う。怒号とともに駆け出した。真っ直ぐ、彼女の方へと。

水飛沫を浴びながら、北山は左手に持った銃を放った。XANXUSのように、1弾の威力が高い訳ではない。ただ、無数の、それこそ、100を越えるだろう弾丸を容赦なくスクアーロに放った。


「効かねぇぞぉぉ゙お゙!!!!」


全てを剣で斬り捨て、スピードを落とさず北山へと突っ込む。そんな絶対的な状況でさえも、彼女は笑う。


『もらった!』


紙一重で避けた北山は、大振りの腕に銃弾を2発。スクアーロの義手が根元から吹っ飛ぶのを見届けた。

まさか。

味方だから知り得る。いや、彼女だったからこそ、知り得たスクアーロの義手の脆いところを。慌てる様子もなく、 北山の腹に回し蹴りを食らわせ、距離をとったスクアーロだが、彼女は顔色ひとつ変えずに暖めておくように置いておいた右手にもつ銃をスクアーロにむけた。


『私の、勝ち。』


誇らしげに、笑う。
その顔は、それは嬉しそうで。


「…あ。」

『え、えええ!?』

「っしし、そんな甘い世界じゃねぇよな。」


構えた銃が、ゆっくりと壊れていく。いつ、どのタイミングで彼女の銃は切られていたのか。


「形勢、逆転だなぁ。」

『あ、はは…ちょ、ちょっと…降参っ!』

「ん゙なもんがあるかぁ゙!!」


片腕しかないのに、武術では彼女は一切歯が立たなかった。あとはじゃれ合う兄弟を見ているようで。なぜかその場で参戦をしたベルフェゴール、そしてあの二人を落ち着かせるには時間を要した。
部屋の修繕や遅れたスケジュールについて考えると面倒だが。それでも彼女の全てを終えた笑みは、引き換えにしても価値がありそうだ。

















あるべき流れとして、私はヴァリアーへ強制送還された。腹部には大袈裟に巻かれた包帯。右腕は折れているんじゃないかってほど痛い。スクアーロに負けたからとか、いいところまで追い詰めたのにもか変わらず、負けたからだとか。そういう結果に左右されたわけでもなく、とにかく、強制送還された。


『…ご迷惑をおかけしまして。』

「全くだ。」


頭を下げたところで、関係はない。
下げた頭にのし掛かった書類。そして降ってくる言葉は死刑宣告。


「これ全部片付けるまで飯も食うな。そこでやっとけ。てめぇの休みは一生ねぇと思っとけ。」


どこのブラック企業よりも怖いよ。それでも、なんだろう、受け入れてもらえた、安心感に泣きそうだ。
随分と、曲がった方に調教されてしまったな、私も。


「で。」

『…はい?』

「てめぇが使えなくしたカス鮫の補填はどうする。てめぇみたいに腕が抜けても生えてくんのか?」

『いや、その…義手の調整さえ終われば…復帰するっていうか。私も、腕は生えないというか。それに、その件に関してはスクアーロにも非があるし…。やっぱり、わたしがかわりに任務にいけばいいかな…。』


スクアーロの、任務。それは、Sランク、またはそれ以上だよね。…いけるかな、どうなんだろう。
そんな悩みも寂しく、次は書類ではなく、下げた頭に銃口が突きつけられた。


「腕無くした癖に勝てないなんざ、てめぇもたかが知れてる。…戻るまでに片しとけ。出来てなかったらカッ消す。」

『え、えええ!?まって!ボスが行くの?嘘でしょ?それならまだベルとか、本気!?』

「あ?俺を誰だと思ってる。」


そういって、コートを翻させてボスは行った。…何てことをしてしまったんだろう。いや、強さじゃない。ボス、あのね、暗殺には事細かなルールがあるっていうか。ああ、始末書が増えそうな予感。


「ボースって、居ねぇの?お、生きてんじゃん。ボスは?」

『ど、どうしよう。ボスがスクアーロの任務。行っちゃった。』

「マジ?面白そー、俺も行こーっと。」


イヤイヤ、そうじゃなくて!私も、と追いかけようとしたら何故かベスターが立ち塞がり、吠える。あ、え、見張り?見張りなの?そんなに怪しまれるの?はいはい、します。しますよっと。

ボスの部屋、というか執務室。香るお酒の匂いとインクの匂い。私の机となっている隅の席にはお気に入りのマグカップ。さて、やりますか。なにか飲み物を注いでから。






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