揺れる黒ばかり見ている君は





年明けの最初に行われる、ボンゴレの会議。今年はボンゴレ本部ではなく、基地が完成したこともあり日本で行われた。ヴァリアーに、と設けられた控え室では今にも古傷が浮かび上がるのではないかと怒りを見せるボスが深く目を閉じていた。これは会議が怖いなぁ。なんて呑気なことを考えていた。会議が始まれば、どこか静かなところで昼寝でもしようか。そんなことを思いながらベスターを撫でていれば、


「澪」


真上から言葉が降ってきた。


「会議の内容は知ってるな。」

『え?』

「あとはてめぇでしろ。沢田に丸め込まれでもしたら、分かってるだろうな。」

『ちょ。ちょっとまって!スクアーロが後少しで戻るし、それに!今日の会議はさすがに出ないと…!』

「ベスターはつけてやる。」

『いやいやいや!別にベスターがいるからボスの代わりって訳じゃないし!ちょっと!』


とんでもないことになった。
有無を言わさず目の前で寝始めたボス、ブラシの続きをかけろと強請るベスター、血相を変えて戻ってきたスクアーロの怒号に起きたボスによって制裁されたスクアーロ。


「おい!ヴァリアー!てめぇら10代目をいつまで待たせんだ…って、北山、何してんだよてめぇは!」

『獄寺、どうしようか。』


まるで悪夢だ。




沢田は構わないと言った。むしろ、彼からするとボスは恐怖の対象であるから私に変わったことで気が少し楽になったと、くだけたように話した。それは、私としては困るのだけれど。


「よぉ、嬢ちゃん。久しぶりだな、XANXUSは欠席か?」

『わたしも欠席したいよ、家光。』

「スクアーロはどうした?あいつに任せそうだがな。」

『さっき死んだかな。』

「おーおー、相変わらず血気盛んだな。まぁ気を張るな、会議っつっても現状報告と今年の抱負を述べるくらいだろ。」

『え、学級会?それは学級会だよね。』















10.差違














北山には、妥協というものがなかった。
XANXUSを相手にするのとはまた違う恐怖がある。ヴァリアーに対して提示した条件を、北山は全てを拒否した。そして、上乗せした結果を求める。

スクアーロとはまた違う、声を荒らげることもせず淡々と要求する姿に呆気をとられてしまう。重鎮とも呼べる、本部の連中を前にしても堂々とした姿。幼い筈なのに、どこか大人に見えてきた。


『反論なし、それならそう言うことで。』


してやったり。

そんな顔が恨めしい。こうして主導権をどんどん握っていくのだろう。誰も、気が付いていない。彼女が提示した条件は、何十とあり、大したことでないようにみれるのに。本当はその中のひとつふたつのためのカモフラージュだということも。後日、落ち着いてみれば「やられた。」と頭の抱えることになることも。


「結局、ヴァリアーは澪を手放す気はねーんだな。」

「むしろ北山が外に出る気ないだろ。」

「まぁな。でも澪がディーノや白蘭、それからお前達のところにいくからな。あいつらも人間らしくなったんじゃねーか。」

「お陰で散々だったよ!」

「まぁ、ツナ。いいじゃねぇか。澪はフラッとやって来てフラッと帰るからな。そこら辺は来やしない恭也と比べればかわいいぜ。」

「ディーノさんまで…。」


ディーノさんも、正直なところ北山に甘い部分がある。彼女も、ディーノさんにはまだ心を許していそうだ。それから、なぜか、白蘭。


「おかしいよな、澪はヴァリアーに居たくて、そのために頑張ってるのに。ヴァリアーの連中は澪が外に行きそうでひやひやしてるなんて。」

「見てる方はおもしれーけどな。」


今回の会議も、見せびらかされたようだった。彼女の立場を。彼女の色を。


「家光が個人的にヴァリアーから引き抜こうってしたこともあったらしいぞ。」

「え、親父が!?…な、なんで、だって北山は」

「澪は殺しはあんましねーんだ、それこそやむを得ず、みてーに。だから、家光はヴァリアーにいるのは北山らしくねぇ、なんつって引き抜こうとしたらしいぞ。結構強引にな。でも、一切なびかなかったらしいぞ。」


どうしてだろう。それは、一生かかっても分からないだろう。彼女とヴァリアーとの絆。信頼関係。
ベルフェゴールと彼女のアイコンタクトも。連携も、すべてに言葉はなく、その関係が羨ましいとも感じた。スクアーロとは、交わす言葉にも重みと期待、それに応えようとする彼女の気持ちが見えて。あの、XANXUSだって。


「ボンゴレに引き抜いてみるか?」

「そ、そんなこと出来るわけないだろ!」

「9代目は喜んでたけどな。XANXUSのことを話してくれる貴重な存在だ、とな。」

「澪ってすげぇよな。ある意味怖いもの知らずっつーか。」


この場でいくら語ったとしても結論は何もない。彼女のことを知らず、彼女のことは分からない。それはこれから先もきっと、ずっと。彼らのことしか見ていない彼女は、オレらなんて眼中にないのだから。
















「もう1回。」

『ん。』


銃を構えて、立ち上がる。ふらふらな足にムチを打って。前髪に隠れた目には、私の姿はどう映っているのだろう。


「脇開けすぎ、動き無駄ばっか。っしし、こんなんじゃすぐ死ぬぜ?」

『…はぁい。』


何度も構え、何度も撃った。時には走りながら。時には崩れた体制で。それでも攻撃の手を緩めず全力で私にぶつかるベルには感謝をしないと。私が、私であるために生きていく術を奪う時間だ。


「黙って守られとけよ。」

『バカ言わないで。』

「あ?」

『肩を、並べたい。』







(無理。なんて言うのは願望で。)
(きっとコイツには一生伝わらない)
(お前は生きてほしいんだってことを)
(肩を並べるよりも、ただ居るだけでいい)
(殺ししか知らないオレらに教えてくれたこと)






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