はじめまして男の子





いつもと変わらないある日。
変わらない、といっても珍しく任務に出ていた。
メンバーは安定の二人、スクアーロとベル
ベルの目付け役はスクアーロか、マーモンだもんね。
私は…ベルに無理矢理連れてこられただけの、オプション



『寒い…。』

「我慢しろよ。カス鮫が逃がしたやつ殺れば終わりだし。」

「う゛おぉい、聞き捨てならねぇ。大体、あれは」

『いや、もうどーでもいいんで。
標的が狙うアタッシュケースは私が持っててあげるからさ、早いとこ片付けてよ。』



とあるホテルの一室で、今はもう冷たくなった体が2つ転がるこの部屋で。そんな会話をしていた。
もちろん、この部屋で待つのは誰だって嫌だろう。
結局、ベルと行動を共にするんだけれど。

決着なんてものはすぐだ。
外の非常階段で乱闘の末に片付いた仕事。
さて、帰るかと足を踏み出せば標的から流れる血に滑り階段で転びかけた。

思わず目を瞑り、それから全身が脈打つように飛び起きれば
そこはさっきの風景ではなく、緑の黒板に固いイス



「だ、大丈夫?」

「ハハッ爆睡じゃねーか、獄寺」



ここはイタリアのはずだから、聞こえることの無い声
薄暗い明け方とは真逆に、太陽が上がるここは…



『……嘘。』



いつもより広い視界
さすが、二重野郎、じゃなくて…。
長い指にジャラジャラと付くのは指輪とかネックレスとかブレスとか。
思考がフル稼働し、ひとつの結論を導き出せば鞭を打たれた馬のように沢田を掴み、山本を呼びながら教室を飛び出していた。







♂♀♂



5時間目っつーのはどーも眠たい。
腹が一杯になったっつーのもあるし、このなんとも言えない暖かさの相乗効果だ。
数学ならあとで教科書読めばわかる、と机に突っ伏せば
階段を踏み外したような。そんな錯覚見舞われ目を開ける。浮遊感と、それから背中の服を掴まれる感じに思わず手が出た。
……が、殴れば怒ったように壁へ投げつけられた。
雲雀にでも起こされたか?



「人が助けてやったっつーっつーのに。」

「っしし♪嫌われてんだよ。隊長は」

「……は?」



目の前に居たのは日本にいるはずの無い連中
暖かさなんてものは存在しない、ここはイタリア…か?



「ぼけーっとしてからだろ。
早く立てよ澪、帰るぜ?」



髪を触り、それから自身の体を見る。
嘘だろ、なんでこんなことに。



「……骨折れたとか言うなよ。おぶんの王子嫌だし。」

「……おい、ナイフ野郎。何しやがった…?」

「はぁ?」

「入れ替わってんだよ!北山と!おれは獄寺だ!」



女と入れ替わったっつーのに顔が紅潮し、
そして意味がわからないと言ったように顔を見合わす二人にどういった表情をすればいいのかも分からない。







♀♂♀



授業をサボってやって来たのは屋上
肩で息をしつつ、長い足に小さな感動を覚える。
いきなり過ぎて沢田の手を掴んだが、誤解されそうなシチュエーションだ。



「え…と、獄寺君?」

『あー、何て言うかさ。
私は獄寺なんだけど、中身は北山澪……です。』



唖然とする沢田と、状況が飲み込めていない山本
やっべ、この中で一番理解の早い獄寺が今は私で…って。もう分かんないよ。



「え、じゃあ…獄寺君は、じゃなくて北山が獄寺君ってことー!?」

『……訳分かんないけど、まぁ。とりあえずのりうつった。』

「なら、北山の方には獄寺がいるっつーことじゃねーの?」



単純バカ、って確かに単純な脳ミソだわ。
それじゃあただ入れ替わっただけだっつーの。
……いや、まぁ。うん。
否定したけれどそれってアリじゃね?
だって獄寺の中身いないし。



『ってか、口の中煙草!』



ヴァリアーでは吸う人いるけれど、身近には居ないっつーか。
意外に健康を気にしてるっていうか。

ポケットに入ってる煙草を燃やして、それからジャラジャラと邪魔なアクセを捨てる。さすがにボンゴレリングの進化したアレは捨てられないから…。あ、沢田に渡してっと。
腰パンもなんか気持ち悪いから戻して、髪の毛は首にチラチラ当たってくすぐったいから纏めて…。



『獄寺更正バージョン』

「ええー。なんか、」

「んー。獄寺っぽくねーな。」



苦笑いを浮かべる二人に携帯、と聞けば無いと言う。
タイミングよくチャイムがなりどうやら5時間目が終わったらしい。
つーか、携帯ないの?いや、獄寺は持ってるな。
結局、屋上は雲雀さんが……という沢田のビビりに付き合い保健室へ。
おいおい、保健室の先生巻き込む気かよー。なんて思えばそこに居たのはトライデント・モスキート、Dr.シャマル
ヴァリアーに勧誘されたことのある殺し屋
あー、なるほどね。医者だもんねー。



「……っつーことは、隼人じゃなくてヴァリアーのあの嬢ちゃんが?」

『そーそー。確証が欲しいなら電話貸して。』

「そりゃまた…。
俺もビアンキちゃんあたりと入れ替わらねーかなー?」



あえて、スルーだ。
6時間目の始まるチャイムに、一度沢田と山本は帰り
静かになったところで電話を借りる。
どこへかけるか。それは自身の携帯の一択しかない。

コール音が5、6回聞こえ、それから無言だが繋がった。



『……あー、もしもし?私っつーか、獄寺?』

《…マジかよ、え?澪今どこいんの?》

『ベル?今は日本の…並中でさ。
獄寺……ってか、私?はどうなってる』

《あー。スクアーロが殴って寝てる。》



なんとなく、それが目に浮かんで獄寺を憐れむ

シャマルは電話を聞くだけでなにも干渉はしないから居心地はいい。
いまのところ。



『あはは、ざまぁ。』

《つーか、声が澪じゃねーから調子狂うっつーか。いつ戻んの?》

『あー、分かんない。変なもの食べた記憶もないし……。』

《んで、それよりもコイツどーすんの?連れ帰ってるけどどこに置くんだよ》

『談話室、何処にしても居たたまれないだろうなー。』



暗殺者の集団、本拠地
イタリア語は聞き取れるから些細な会話まできっと全部分かってしまう。ぬくぬくとした日本の生活ではあり得ない血生臭い会話
それより、ボスが私の体ごとカッ消さないかたけが気がかりだよ。



『ベル、絶対トイレとお風呂は行かせないでね。』

《安心しろよ、別に誰も得しねーから。》



フッと笑みを溢し電話を切った。
ありがとう、なんて言えばシャマルは複雑な顔で「野郎に言われても気持ち悪い」なんて返される。そっか、私は今あの、獄寺なんだっけ?



『シャマル、とりあえず早退するから手続きよろしく。』



後ろのポケットにチェーンで繋がってる財布はどこか重たい気がするし。
入れ替わった特権?向こうも好きに動けるなら好きに動けばいいよ。動けるなら。



Change×Change×Change...?



(んま、ジャッポーネのあの子と入れ替わってるのー?)
(入れ替わってるっつってんだろ!ってかナイフ野郎ムービー撮んな)
(っしし♪今日マーモンいねぇし見れねーじゃん♪)


-fin-







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