避けられない共依存関係



「みーくも!」
「せ、先輩。こんにちは」
「そんな怖いものでも見たかのような顔しないでよ。先輩悲しいなぁ」
「すみません……」
「いいよ、いいよ。そんなに気にしてないから」
 三雲の肩にポンと右手を置けば、三雲はびくりと身を震わせる。それがなんだか面白くてその手を滑らせるように三雲の頬へもっていく。綺麗な肌に右手をそわせれば、三雲が後ろへ退いてじゃらりと鉄の環同士の擦れる音がした。
 あぁ、忘れてた。そういえば着けてたね。
 サビひとつない綺麗な鉄の枷。汚れひとつない綺麗な服。健康的で綺麗な肌。
 綺麗≠ェ似合う三雲にぴったりのものを揃えた。食事だってちゃんと与えてる。なんなら毎日一緒に食べている。その時間は本当に楽しい。
 この生活もどれくらい時間が経っただろう。気にならなくなるくらいの長い時間なのかな。テレビでは連日行方不明ということになっている三雲についてのニュースが取り上げられている。それもそう。彼はボーダー隊員で、ボーダー機密を抱えている。それは三雲に限らずどのボーダー隊員にも共通だけど。誘拐の線での捜索に切り替わったのは、つい最近だったかかなり前だったか。
 三雲は今の生活に同意してくれている。最初は抵抗された。そりゃあ見ず知らずの場所で生活するなんて怖いよね。魔法の言葉を使えばすぐに大人しくなって、今では怯えることはあれど受け入れてくれている。でも、三雲をこの部屋からお風呂とトイレ以外で出すことはない。
 もし間違って三雲が外に出てしまったら大変なことになってしまう。行方不明で世間を騒がせた彼が平然と街に現れたら誰でも驚くと思う。だから、そんなことにならないように色々考えてるつもり。
「今日のご飯は、オムライスとお野菜です!」
「先輩、卵料理好きですよね」
「へへん」
「でも、少ししょっぱい気がします」
「そうかなぁ……」
 食事の時、三雲は警戒を解いてくれる。いつも解いてくれればいいけど、解いてくれるだけありがたい。食事が終わりに近づいていくにつれて箸の動きがいつも遅くなる。震えている。特に何かをしている訳でもないのにな。
 食事を終えたら、食器を下げて歯磨きをする。そういえば歯磨きする時も部屋を出ていいようにしてる。三雲は綺麗≠ナいないと。
「あ」
「どうしたの?」
「別に、なんでもないです……」
 サッと隠された三雲の左手を掴んで目の前に持ってくると紙で切ったような切傷がついている。血がじわりと滲んでいる。傷口からバイ菌が入ってしまう。綺麗な血液がけがされてしまう。
 絆創膏どこにあったっけ。いや、まず消毒をしなきゃ。水で洗うのが先だっけ? ステロイドの塗り薬あったっけ。ガーゼの方が良いのかな。未開封のティッシュまだあったっけ。早くしないとどんどん汚されてしまう。
「……い、先輩。落ち着いてください」
「落ち着けないよ! 早く手当しないと三雲が汚れる」
「これくらいの傷ならどうってことありませんから。視界に入るまで気づかなかったくらいですし」
「そういう小さな傷でも切断しなければならなくなるくらい悪化することだってあるんだよ。そんなの絶対に嫌だ」
 救急箱を取り出して中を確認するとちゃんと全部揃っていた。消毒液で傷口を洗って塗り薬をガーゼにつけて薄く伸ばし、そのガーゼを傷口に当ててサージカルテープで固定した。三雲は顔を顰めていたけど、これで綺麗を保てるんだからいいでしょ。
「これでよし。もう夜も遅いから部屋に戻って。ちゃんと寝るまでそばにいるから」
「あの、枷を外したまま寝るのは……」
「ダーメ! 三雲は迷惑だろうけどそうしないと私が心配なの。別に取って食うわけじゃないから我慢して」
 三雲を部屋に戻して足に鉄枷をつける。これだけでも酷く安心する。三雲がここに居るという安心感。このままこの日が続けばいいのに。
「はい。いつも通り、寝る前にこれ飲んでね」
「……はい」
 それを見届けて三雲が寝るまでじっと傍で眺める。寝息が聞こえてくると静かに部屋から出る。明日は何をしようか、とても楽しみになった。





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