一歩踏み出すのを遮ったのはコイキングちゃんが私のワンピースをくんっと掴んでいたからだった。

「え、えっと、もう1回言ってくれる?」
「わたし、いっしょ いく!」

どうやら聞き間違いではなかったみたいだ。突然の提案に彼女から視線が外せない。

「わたし、チサトちゃん すき。いっしょ いたい」
「あ、えっと……。」
「コイキング、俺達は遊びに行くんじゃないんだぞ。」
「わかる。たび でる?」
「そうだ。どこに行くかもまだ決まっていない。野宿も、バトルもするだろう。メシだっていつも菓子が貰えるわけじゃない。楽しいだけじゃないぞ。」
「わたし、ばとる つよい、よ?」
「そういう問題じゃないんだが……。」

晴琉くんの言葉がチクリと刺さる。何も決まっていない。宿もない。バトルなんてしたことない。……どうしよう。本当は、本当は私なんかが考えなしに飛び出してどうにかなるものじゃなかったのだろうか……。
彼に悪意は全くなく、ただ事実を述べただけ。それなのに、私の気持ちはどんどん沈んで深みにはまっていくような感覚がした。

けれど。

「とれーなー たびする ふつう。はじめて ふつう。ちがう?さんにん きっと たのしい!」

ハッとした。その真っ直ぐな言葉に。
そうか、普通のことなんだ。まだ見たこともやったこともないことで悩んで動けないなんて今までと一緒だ。全部新しいことなんだもの。これからちょっとずつ進めばいいじゃないか。

「コイキングちゃん……。」
「ほら、チサトも困ってるだろ。」

私、私は……

「コイキングちゃん、一緒に行こう。」
「!、おいチサトっ?」
「いっしょに、一緒に旅をしてくれる?私、この歳で旅も初めてだし、バトルもしたことない。上手くいかないかもだけど……。」

あなたと一緒に旅がしたいの。

「いい よ!いっしょ がんばろ!」

言葉は拙い彼女だけど、きっとこの中の誰よりも物事の本質を見ているのかもしれない。その大きく澄んだ目で。

「あなたに名前を贈りたいの。いいかな?」
「……はる?」
「ううん、晴琉くんは晴琉くんだけの名前。あなたにはあなただけの名前。」
「いい よ、はるくん ずるい」
「ふふっ、そっかずるいか。じゃあね……澄(すみ)ちゃん。澄ちゃんなんてどうかな……?」
「す、み……、すみ、すみ……!いいよ!……すごい、すき!」
「ありがとう!澄ちゃん、これからよろしくね!」
「よろしく ね!チサトちゃん!」

私の2人目の仲間、コイキングの澄ちゃん。
私とも晴琉くんとも違う角度で世界を見ている女の子。知らない何かを私にくれるかもしれない。

「はぁ……、行くぞ。チサト。……澄。」

ガバイトの姿に戻った晴琉くんは少し前を歩き始めている。ニマッと頬をゆるませ笑う澄ちゃんの手をとって、私達は晴琉くんの背を追った。


「ねぇ、げっと しない?」
「あ!私、ボール持ってない!」
『あのなぁ……。』



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