「あ、チサトさん。来てくださってありがとうございます。」
「いえ、こちらこそ今日は色々とお世話になってます。」
「ふふっ、ここはそういう施設ですからね。そう、ヒトカゲのことでお話があるんです。」
ジョーイさんは少し困ったような顔で、私に椅子を勧めてきた。お言葉に甘えて腰を掛ける。
「あのヒトカゲ、どこか悪いところでもあったんですか……?」
「いいえ、そういうわけではないの。倒れた主な原因は栄養失調ね。お腹がすいていたんだと思います。そこに技を受けたからなかなか起きなかったんでしょう。」
「う、打ちどころが悪かったりは……?」
「しないわ。大丈夫よ。」
よ、よかった……!とりあえずひと安心だ。でも栄養失調ってどういう事なんだろう?確かオオタチくん達も、ヒトカゲが勝手にきのみを食べていたから喧嘩になったって言っていたっけ?
「チサトさん。あの子はあなたのポケモンではないのよね?」
「はい、違います。」
「ヒトカゲは珍しいポケモンで、基本的に野生で出てくるなんてことほとんどないんです。この辺りに生息している、という話も聞いたことがない。この子にもボールマークがあったわ。」
ボールマークとは捕獲されボールに入ったポケモンに付けられるマークで、盗難などの防止に繋がるらしい。
「ボールマークがついていたってことは、誰かのポケモンって事ですか?」
「そう、ただしヒトカゲについていたものは少し特殊で、名前を上書きできる初心者用のものなの。」
「初心者用……?」
「ええ、博士から最初のポケモンとして渡されるポケモンに使われるものよ。つまり、このヒトカゲは研究所のポケモンで、何らかの理由で草むらにいたってことになるわね。」
なるほど、研究所育ちだったら外で食べ物を集める方法も知らないのかもしれない。迷子なのか、逃げ出したのか、それとも盗まれたのかわからないけれど、栄養失調にまでなってしまうなんて……。
「今、ヒトカゲはどうしてるんですか?」
「目は覚めたみたいよ。ベッドで点滴中です。会いますか?」
「はい。」
「そう、よかったら何があったのか聞いてあげてくれる?」
「……えっ。」
「あ、ごめんなさいね。ラッキーから聞いたの。チサトさんはポケモンと意思疎通が出来るのかもしれないって。ほかの人には絶対言わないわ。もちろんラッキーにもそう言っておきました。」
「……。」
「ここはポケモンにとって病院でもあるの。病院には守秘義務があるわ。大丈夫、安心して。」
「……わかりました。どうか、内緒でお願いします。」
「はい。約束します。」
ジョーイさんと別れてヒトカゲがいるという病室に向かう。
そこでは点滴の様子を伺うラッキーさんと、引っ掻いたりしないようになのか、可愛らしいモコモコ丸い手袋を付けたヒトカゲくんがいた。すこし不服そうである。
『あっチサトさん!あの、ごめんなさい、わたし……。』
「大丈夫ですよ。ほかの人には内緒にしてくれるんですよね?」
『も、もちろんです!私はこれでもジョーイ助手なんですよ!』
「頼もしいです。」
では失礼します。お大事に。そう言ってラッキーさんは病室を出ていった。
「……あの、ヒトカゲ、くん?」
『誰、お前。』
「あ、君をここまで連れてきたチサトです。」
『……!オレの言葉が分かってるのか?』
「は、はい。わかります。」
『……変なやつ。』
あはは、と笑うと睨まれてしまった。どうやらご機嫌はまだナナメのようだ。
「痛いところとか、ないかな?」
『このひもがウゼェ。』
「あ、ダメだよとっちゃ。あなた栄養失調だったんだから、それはご飯みたいなものなの!」
『……そっか。メシなのか。』
「……あの、ジョーイさんから聞いたんだけど、あなた、研究所の子なの?」
『!!』
研究所のことを話した途端、ヒトカゲくんはガタッと音を立てて立ち上がろうとした。点滴が揺れる。
「ああ、暴れちゃダメだってば!」
『うるさい!お前も研究所の仲間か!』
「ちがうってば!ジョーイさんから聞いたって言ったでしょ!」
『……!ぐっ……。』
「ほら急に動くから!大丈夫?ジョーイさん呼ぶ?」
『……も、いい。オレに構うな……。』
ううん、最初に戻ってしまった気がする。研究所という言葉に反応して暴れようとしたってことは……?
「研究所……、嫌いなの?」
『……。』
「戻りたくない……の?」
『……。』
「うーん。どうしよう……。」
『……。』
「……じゃあ、私達と一緒にくる?」
『……はぁ?』
ポケモンもするんだな、ポッポが豆鉄砲をくらった顔って。
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