翌朝、一番に起きたのは私だった。
今までの習慣が一日二日で抜けはしない。朝ごはんを作ってしまおう。
昨日買っておいた材料の残りを使い切る。 備え付けの炊飯器で炊いたごはん、豆腐のお味噌汁、適当な野菜のサラダに、オムレツ。くだもの。こんなものでいいかな?
昨日の晩御飯のとき、3人にはポケモンフーズとご飯、どっちがいいか聞いてから食事を作った。みんな人間と同じ食事は初めてだそうだ。野生だった澄ちゃんに至ってはフーズすら初めて見る産物だったようで。
最近テレビでちょこちょこ見かけるようになったガラル?という地方ではポケモンと一緒にカレーを作って食べるようだし食材に気をつければ人とポケモン、同じ食事でも大丈夫なようだ。もちろん栄養のバランスなどは考えなければいけないけれど。
作ったハンバーグを慣れない食器を使って食べる澄ちゃんとヒトカゲくんは、一生懸命だからこそつい笑ってしまうくらい可愛らしかった。
ひとり、私と同じように箸を使って食事をしていた晴琉くんは、一口一口あまりにも丁寧に食べるからこっちが恥ずかしくなってしまった。

トントントン、サラダ用にキャベツを刻んでいるとドアノブが回る音がする。

「晴琉くん?おはよう。」
「……。」
「まだ眠い?顔洗ってくるといいよー、あっ、ついでに浴槽で寝てる澄ちゃん起こしてくれる?」
「……。」
「……?はるくん?」

返事がない。包丁を動かす手を止めて振り返る。てっきり晴琉くんだと思い込んで話しかけていた相手、それは見知らぬオレンジ色の髪をした少年だった。しっぽ付きの。

「……もしかして、ヒトカゲくん?」
「……オレだってわかるのか?」
「う、うん。ヒトカゲの尻尾もついてるし。……人の姿になれたんだね、びっくりした。」
「……これが、人になる……。」
「あれっ、もしかしてはじめて……?」
「……うん。」

うーん、なるほど。ヒトカゲくんは確か研究所生まれ研究所育ち、そしてすぐに旅立つ予定だった。人の姿をとる機会もなかったのだろう。
自分が動かしている手足を逐一眺めては触るヒトカゲくんがなんだかとても可愛く見える。

「おはよう。騒がしいな。」
「晴琉くんおはよう!見て、ヒトカゲくん人の姿になれたみたい!」
「ん?あぁ、ヒトカゲもおはよう。」
「……おはよう。」
「お前、人の姿になるの初めてだったのか?」
「……おう。見たことしかなかった。」
「そりゃ戸惑うよな。でもそのうち慣れると思うぞ。細かい動作、特に箸は難しいから頑張れ。」

わしゃわしゃとヒトカゲくんのオレンジ色の髪をかき混ぜて、晴琉くんは洗面台に向かった。
ヒトカゲくんは相変わらず見慣れないらしい手のひらをグーパーしている。
かき混ぜられて散らかった髪の毛を直そうと、手を洗ってからヒトカゲくんに近づき声をかける。

「私もこの間初めて知ったんだー。びっくりだよね〜。」
「……。」
「ひゃー、髪の毛サラサラだ……。炎とおんなじオレンジ色だ。」
「……おう。」
「……そうだ!ヒトカゲくん、このコップ、テーブルに置いてきてくれる?ゆっくりでいいよ。」

まだ実感が持てていないようなヒトカゲくんにひとつ、お手伝いをお願いした。
声に反応してキッチンカウンターから恐る恐るコップを1つ持ち上げる。中身は勿論空だ。
ゆっくりゆっくり足を進めていく。ゴールのテーブルまで3、2、1、フィニッシュ!無事置くことが出来ました。

「……!おい、できたぞ。」
「うん!すごいね!ありがとう!あと3つあるんだけど……頼める?」
「おう、任せとけ!」

新しいことができるようになるという体験は大切だ。それがわかっているのか、前髪を少し濡らして戻ってきた晴琉くんも微笑ましそうには見ている。その横にはまだ眠そうな澄ちゃんが。

「澄ちゃんおはよう。」
「……おは、よ。」
「晴琉くん、お味噌汁運ぶの手伝ってくれる?」
「ああ、この盆ごと持っていっていいのか?」
「うん、お願い。……ねぇ、晴琉くんもお箸の練習とかしたの?」
「……秘密だ。」

口元に人差し指を立てて笑う。茶目っ気たっぷりの彼が、なんだかずるい。

立つ鳥跡を濁さず、をモットーに一泊した部屋を掃除。食器も水気を拭いて棚に戻す。部屋の片付けが終わったら、身支度を整えて。
最後にぐるりと全ての部屋を見渡して。うん、大丈夫そう。
晴琉くんと澄ちゃんにはボールに戻ってもらって、元の姿に戻ったヒトカゲくんを抱っこする。

『なんで抱っこなんだ。』
「いや?」
『……別にいい。』

嫌がられなくてよかった。
部屋の鍵を返すために受付に寄る。

「あらチサトさん!おはようございます、ヒトカゲと随分仲良くなったのね!」
「ジョーイさん、おはようございます!今日、ワカバタウンの研究所まで行こうと思っています。」
「そうなのね!よかったわ。……うん。ヒトカゲも元気ですね。これなら動き回っても大丈夫ですよ。」
「そうですか!よかったね、ヒトカゲくん!」
『……ありがとな。』
「ふふっ、お大事にしてくださいね。博士にもよろしくね。」

ヒトカゲくんは、尻尾を緩く振ってご挨拶。言い方がぶっきらぼうな分、可愛らしい。ジョーイさんも手を振ってくれている。
鍵を返して、さあ出発だ!



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