「どうぞ、紅茶でよかった?」
「あっ、ありがとうございます!いただきます。」

ウツギ博士は私達を客間に案内するとヒトカゲくんを抱えて奥へと消えていった。
通された部屋で待っていると、ウツギ博士の奥様が紅茶を入れてくれた。ほんのり果物のような甘いいい香りがする。遠慮せずに口をつける。すごく美味しい……。どこのメーカーだろう?
ごゆっくり、と言って退出していった奥様と入れ替わるようにウツギ博士が戻ってきた。手にはモンスターボールを持っている。

「で、チサトちゃん、だっけ?」
「はっ、はい!」
「まず初めに、ヒトカゲを保護してくれて本当にありがとう。この子はうちの研究所にいたヒトカゲで間違いないのよ。健康状態も問題なし。無事に帰ってきて本当によかった。」
「いえ、お礼なんて……!あの、ヒトカゲくんは今は……?」
「このボールの中だよ。会うかい?」
「博士がいいのであれば会いたいです。」

私の言葉を聞いて、ウツギ博士はボールを床に向けて軽く投げた。赤い光とともにヒトカゲくんの姿が現れる。キョロキョロと周りを見渡したあと、私の姿を確認してソファの隣によじ登ってきた。
健康状態のチェックをされたからか、不機嫌そうに尻尾をパタパタさせている。

『オレ、やっぱここ嫌いだわ。』
「ヒトカゲくん、検査お疲れ様。」
『……おう。』
「ははっ、ヒトカゲは随分チサトちゃんに懐いたんだね。逃げ出す前はちょっと気難しい子なのかと思ってたんだけど。」
「あ、ありがとうございます……?」
『別に懐いてねぇし。お前よりマシなだけだし!』

ヒトカゲくんは照れ隠しなのか、ソファに置いていた私の手を足蹴にしている。可愛いけどやめて、ちょっといたいよ!反撃として、つるりと触り心地のよいヒトカゲくんの頭を撫で回してやった。

「チサトちゃんはトレーナーだよね?」
「はい。まだなりたてなんですけど……。」
「でもヒトカゲとこんなに仲良くなっている。キミはポケモンと仲良くなるのが得意なんだね。」
「いやそんな、でも、ありがとうございます。」

褒められることに慣れていないから、なんだか照れ臭い。でも、嬉しい。褒められるということは、こんなに嬉しいんだ。
ウツギ博士の言葉に、心の中がほわっと温かくなった気がした。
つい顔を赤くしていると、ヒトカゲくんがなんだか小馬鹿にするような顔をしてこっちを見てきた。なんだその顔は、また撫で回しちゃうぞ?

「……うん、やっぱりこれがいいね。チサトちゃん、ヒトカゲを譲り受けてくれないかい?」
「……え?」
「ヒトカゲがこんなに表情豊かにしているのをボクは初めて見たよ。きっとキミといるのが心地いいんだね。」
「……そうだと嬉しいです。」
「そしてチサトちゃんはそれを喜んでくれるとっても優しい子だ。そんな2人は一緒にいるべきだよ。」
「で、でもヒトカゲは初心者トレーナーに渡す大切なポケモンなんですよね……?」
「そうだよ。でもチサトちゃんにヒトカゲを預けたいって思ったんだ。ボク、博士としては若いほうだし威厳も無いって言われるけど、これでも人を見る目はあると思うんだ〜。」
「博士……。」
「ね、お願いできるかな?」
「私、ヒトカゲくんと旅がしたくて、譲ってくださいってお願いしに来たんです。まさか博士がそう言ってくださるなんて……。ありがとうございます!……本当に、ヒトカゲくんと、旅をしてもいいですか……?」
「もちろんだよ!いやぁ、よかった!」
「ありがとうございます。本当にありがとうございます!」

思わず目元がじわっと熱くなる。認めて送り出してもらえるなんて思っていなかった。こんなに幸せなことはない……!

「ヒトカゲくん、改めてよろしくね!」
『……名前、くれないのか?』
「……え?」
『オレには名前くれないのか?』
「名前、つけてもいいの?」
『……いいって言ってんだろ!早く寄越せよ!』

意地っ張りだけど、とても素直で。
オレンジ色の尻尾の灯は、私達の旅を明るく照らしてくれるだろう。

「灯李(とうり)くん。」
『……とうり。』
「……どうかな?」
『くん、はいらない。』
「えっ?」
『灯李って呼べよ。チサト』
「……ありがとう。よろしくね、灯李。」





「ねぇチサトちゃん!もしかしてキミ……ポケモンと話せるのかい!?」
「……あっ!」
『隠すつもりあったのか……、お前やっぱりアホだろ。』


前へ次へ


BACK