りゅうのあなへの道を阻むように出来た水辺。そこにある幾らか開けた場所が相棒の修行場所だ。
やっぱりここにいた。今日は苦手な相性、氷タイプのニューラにお相手を頼んでいるらしい。相変わらずストイックだ。激しい技のせめぎ合いに、きっと今声をかけても聞こえないだろうと、近くにあった切り株に腰かける。
『今日のおやつはなぁに?』『イイ匂いがする!』『くれ!くれ!!』賑やかしい声に視線を落とすと、ウリムーの子ども達がいつの間にか足元に集まっていた。
「いかりまんじゅうだよ、でも私と晴琉くんの分しかないからあなた達はポロックね」
そう言ってケースから出したポロックを地面に撒いてあげる。撒いた傍から消えていくその様は吸引力の変わらない掃除機のようだ。
首なのか背中なのかわからない境目のあたりをこしょこしょと擽ってやると、こそばゆかったのかチクチクとした体毛をブルりと揺らした。
「いつも言うけど、本当は気安く人間に近寄っちゃダメなんだからね?わかってる?」
『わかってるよもう!それを言うならおまえの方だろ?』
『そーだそーだ!ニンゲンはポケモンに気安く近寄っちゃダメなんだぞ!』
『チサトちゃんは特に気をつけないと!でしょ!』
おっと、痛いところを突かれている。この春生まれたウリムーの子ども達は、餌付けをしすぎたのか、こうして話をするほどまでに仲良くなってしまった。祖父に見つかったら、お説教の一つでは済まないだろう。
祖父が私を旅に出したがらない理由の一つ。それがこのチカラ。ポケモンと話をすることができること。物心つく前から私はポケモンと友達のように話していたらしい。
まだ覚えてもいない小さな頃に事故で両親を亡くした私を、こんなチカラをもった私を、祖父は守り、育ててくれた。大切に、大切に。けれど。
10歳で大人と同じ法や税を科されるこの地方で、私はもう子どもだとは言い難い年齢だ。
今は少し説得に疲れてしまったけれどきちんと話して、許しを得て、旅に出たいのだ。
無邪気にポロックを取り合うウリムー達を見ながら、この池の向こうにいるであろう祖父に思いを馳せた。
***
『考え事か?』
耳に入ってきた少し低くて優しい声。晴琉くんが特訓から戻ってきていたらしい。
顔を上げると勝手にカゴから取り出したのであろうまんじゅうにかじりつき、モゴモゴを口を動かすガバイトの姿が。
「晴琉くんいつの間に!お疲れ様」
『少し前には戻っていたんだが…、チサトの分まで食べてしまうところだったぞ。何かあったか?』
フカマルの頃はもっと無邪気で元気な声色だったはずなのに。最近の彼の声はなんだか優しくて不意にドキリとしてしまう。なんだかいい声なんだもの。
「んーん、なんでもないよ。今日はこれでおしまい?」
『ああ、ニューラ相手の特訓はくたびれる……。食べないのなら貰っていいか?ソレ』
「え、あっダメ!これは私の分です!」
『なんだ、残念だ』
腰掛けて見上げた晴琉くんは本当にちょっぴり残念そうな顔をしていて、なんだか笑ってしまった。以前よりずっと厳つい見た目になったのに甘いもの好きは変わらない。少しかわいい。
いかりまんじゅうを少し急いで平らげ、切り株から立ち上がる。
だいたい同じ位の位置にある彼の手(というより爪)をとって、屋敷の方へ足を向ける。足元にいたはずのウリムー達はいつの間にか帰っていた。私達も帰ろう。
「今日、久しぶりに来客用のお布団を干したの。取り込むの手伝ってくれる?」
『……爪で穴を開けても文句言わないでくれよ?』
「そんな失敗したことないのに!ふふっ!」
穏やかな帰り道。スカートを揺らす風は初夏の青いにおいがした。
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