チサトが旅に出ると決めた。

長老とワタルの話を思い出すと収まっていた怒りが湧いてきた。俺のトレーナーをなんだと思っているんだ。俺が隣にいることにも気づかずに廊下で立ち尽くすチサトの、白く、温度を失った手を思わず掴んだ。振り返った彼女の顔を見て、何があっても守ると決めた。

フカマルの俺に"晴琉"という名前をくれた、柔らかく小さな女の子。きっと噛んだらすぐに折れてしまうだろう。こんな柔らかな彼女の傍にいようと思った。

出会った時からチサトも、俺も、ずっと待っていたんだ。
出鼻をくじかれた11才の旅立ち、俺もチサトも幼く弱かった。長老の言うことには逆らえない。次の機会があると信じお互いやれることをやった。
俺は来る日も来る日も修行した。
生憎相手に困ることは無かった。りゅうのあなに、こおりのぬけみち、ここ45番道路にも野生のポケモンやトレーナーが山ほどいたおかげだ。

何があっても折れないように。守れるように。
武者修行をし過ぎ、ガバイトに進化してしまったときは怒られてしまったが。

しかし。

それから4年、チサトは旅に出なかった。
何度長老を説得している姿を見ただろうか。
いつしかチサトは説得をやめた。少し疲れてしまったと、泣きそうに笑いながら俺に言ったのを鮮明に覚えている。言葉とは裏腹に、俺のボールを磨く顔には諦めきれない未練がいつだって滲んでいた。

俺はパートナーとして、チサトの意思に添いたかった。だからさらに修行をした。
いつかチサトが自分で進めるように。その時、隣にいられるように。

ふと目線を落とすと、木に寄りかかっていたはずのチサトは、いつの間にか本格的に寝てしまったのか地面に丸くなっていた。いつかテレビで見たニャースのようだ。木の根があって痛いのか少し眉を顰めている。
手を貸そうと思ったが俺の爪や鱗はチサトの肌を傷つけてしまう。仕方がない。チサトには見せたことは無いが、人の姿で膝を貸してやろうか。チサトが起きる前に元の姿に戻ればいいだけだ。
この姿を見せたらきっと腰を抜かしてしまうだろう。もしかすると怖がらせてしまうかもしれない。

安心して旅ができる環境になったら伝えられるだろうか。ポケモンが人に、自分がポケモンであると知られた上で人の姿を見せるのは信頼の証なのだ、と。
そんなことを考えながら、今にも星が降りそうな空を仰いだ。


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