ある少年の悪夢
オレは今夢を見ている。そう、夢に違いない。だって、じゃなければオレの前に広がっているこの光景は一体なんだ?
ピッ…ピッ…ピッ…
人工呼吸器を付けられて横たわる珠綺の姿。顔には痛々しい傷を隠すようにガーゼが貼られ、椅子に腰掛けた三ツ谷は片手で両眼を隠したまま一向に頭を上げようとしない。嫌な予感がしたんだ。ネイルが終わったら迎えに行くって電話をかけたのに、一向に折り返しの連絡が無かった事に。流石に23時を回っても連絡がつかないのはおかしいと思って三ツ谷に電話したら、くぐもった声で病院に居るって返された。慌ててCB250Tを走らせて言われた病院に向かったらコレだ。何だ、コレ。どうしてこうなった?
「……連絡が遅くなったのは悪かった。オレもさっき来たばっかで気が動転してて……」
いつも冷静沈着な三ツ谷がこんなに弱々しい姿は初めて見た。
「暴走したバイクに突っ込まれて、頭を強く打ったらしい……外傷はほぼ無いけど、脳死だと…もう、戻らねぇって…」
目の前が真っ暗になった。この感覚には覚えがある……そうだ、あの時。兄貴が死んで、場地と一虎が警察に連れて行かれた時と同じだ。恐る恐る寝たっきりの珠綺に近付いて顔に手を伸ばす。こんなにあったけぇのに、心臓が動いてるのに、三ツ谷は珠綺はもう目を開けねぇし、喋らないし、オレを抱きしめてくれないという。
「……オレ、ドラケン達にも連絡してくる」
俯いたまま三ツ谷は病室を出てったけど、オレは何も声をかけられなかった。昔、エマがテレビを独占して狂ったみたいに見入ってたビデオでは、眠ったままのオヒメサマにオウジサマがキスをすると目を覚ますってあったよな。けど、キスをしようと珠綺の口元を覆ってる邪魔くさい器具を外せばその瞬間珠綺の心臓は止まっちまうんだと。珠綺の長いまつ毛に雫が落ちる。珠綺が泣いてるのかと思ったけど、続けて頬や鼻にも水滴が落ちるのを見てソレがオレの目から落ちたんだとようやく気付いた。
こんな事なら、エマの言う通りさっさと告れば良かった。だからどうってワケじゃねぇけど、珠綺の人生の中でオレは仲の良い異性の友人≠ナ終わってしまった。この先一生、オレは珠綺の彼氏にはなれなくて、珠綺を彼女と呼ぶ事も出来ない。
これは夢だ、そうだろ?頼むから早く覚めてくれ……頼むから………。
『もしもし?万次郎?』
電話越しに聞こえた声に何故だか妙にホッとした。
「今日ネイル行くんだったよな?いつ終わる?迎えに行く」
午後の睡眠学習を終えて顔を上げた時、顔が涙でぐしゃぐしゃになっていて少し焦った。内容は覚えてないけど、すっげぇ嫌な夢を見た事だけは覚えてる。そのモヤモヤが晴れないまま東卍の集会になって、終わるとすぐに珠綺に電話をしなくちゃいけないって気に駆られた。
『それが間に合わなくてさ、今日は諦めてもう帰るわ』
「分かった。今からそっち行くから待ってろ」
『ん、待ってる』
電話を切るなりオレはケンチンに一言声を掛けてすぐさまCB250Tに跨る。ようやく胸のモヤモヤが晴れたけど、何でか早く珠綺の顔が見たいと思ったからだ。今日はー……確か珠綺ンちだったよな?帰ったら飯食って、風呂入って……そんで、珠綺がキレるまでチューして、いつも以上にアイツを抱きしめて寝よう。きっと、昼とは違って良い夢が見られるに違いない。
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