ある少年とその相棒

 小気味いいエンジン音と共に髪が後ろに攫われる。顔に当たる風が冷たくてもう秋も終わりに差し掛かっているんだと実感した。GSX250Eゴキを走らせながらボーっとしてると、くんっと後ろ髪が引かれる。一瞬風邪で髪がメットに引っかかったのかと思ったけどそうじゃねぇ。オレを馬だと勘違いしてんのか、後ろに乗せた昔馴染みはまるで手綱を引くように何度もオレの髪をくいくいと引っ張った。



「オイ珠綺、事故ったらどーすんだテメェ」

「……髪、伸びたな」



 人の話を聞かねぇトコはマイキーにそっくりだ。まぁ、走ってる最中に後ろで爆睡かまさないだけ珠綺の方が数倍マシだとは思うけどな。



「そうかァ?自分じゃよく分かんねぇなー…」

「何年か前も、今日みたいに夜呼び出してバイク出してもらった事があっただろ?あの時はまだこんな長くなかったなぁーってさ」



 覚えてるワケねーか、って珠綺は笑う。覚えてねぇワケねーだろ。そりゃ、テメェのワガママに付き合わされんのは1度や2度なんてもんじゃねぇけど、あの日だけは別だ。2年前の6月19日……マイキーに呼び出されて東京卍會が誕生した日。家に帰って寝そべりながら漫画を読んでたオレは、急に耳元で鳴り響いた爆音に飛び起きた。ウトウトしていたところを起こされて、さらに天井に頭をぶつけて気持ちは最悪だ。こんな遅くに誰だよ、とイライラしながらサブディスプレイを確認すると見慣れた名前が表示されていた。いつもならすぐに通話ボタンを押して怒鳴り散らしてやるのだが、その日はなんとなくそんな気になれなかった。



「……もしもし?」

『遅ぇ』

「寝てたんだよ。ンだよ、こんな時間に電話してきやがって……」

『ちょっと付き合えよ』

「は?」

『今、お前ンちの下にいる』

「はぁっ!?」



 メリーさんかオマエは?!寝床から降りて、半開きになっている窓を開ける。駐車場の塀に腰掛けた人影が、オレの姿に気付いたのかひらりと片手を上げた。



「オマエ何してんだよ!?」

『だからちょっと付き合えって。そーだなー……海行こうぜ、海』

「今何時だか分かってんのか!?」

『分かってるに決まってんだろ。だからさっさと準備して降りて来いよ。こんな時間に大声上げたら近所迷惑だろ」



 どの口が抜かしてやがる。バイクの鍵とメットを2つ……それから干しっぱなしになってたパーカーを掴んで家を出た。



「お台場あたりが良いと思うんだけど、どうよ?」

「何で行く事が決定事項になってんだよ」



 そう言いながら、メットとパーカーを珠綺に渡すオレもオレだと思う。珠綺は当たり前のようにオレの後ろに跨って、我が物顔で「出発!」と叫んだ。どうやら近所迷惑がどうとか言ってたさっきの自分の発言は忘れたらしい。高速道路を走る間の珠綺との会話はいつもと何も変わらなかった。新しい学校はどうだとか、この前行ったネイルサロンが失敗だったとか、私立小学校を受験予定の弟はオレとは違って大変優秀だとか(大きなお世話だ)、そんな話ばっか。テキトーに相槌を返しながらも、話題の中にマイキーや三ツ谷の話が出て来ない事に違和感を覚える。やっぱ、そうなるよな……。珠綺がオレを呼び出した理由が痛い程よく分かって、オレはこの後コイツになんて声をかけてやればいいのか分からなかった。



「んーっ!昼走るのも好きだけど、夜のツーリングは最高だな!」

「自分で運転しねぇくせに何言ってんだよ」

「高速代出してやったんだから文句言うなって」



 レインボーブリッジの高架下に着くと、珠綺はバイクから降りてぐぐっと背伸びをする。



「風を切る感覚は好きなんだけどなー……私はお前らと違ってバイクをいじるのには興味ねーんだよ」



 振り向く事無くそう言った珠綺がどんな顔してんのか確認する術は無ぇ。ズズッと鼻を啜る音がしたのは、海風が少し肌寒いせいであって欲しいと思った。



「……さっき、万次郎と喧嘩した」



 その場にしゃがみこんで、珠綺はボーっと夜の海を見つめながら続ける。



「お前らが東京卍會って暴走族チーム作るって報告受けて、当たり前みたいに私も入れてもらえるもんだと思ってた。そしたら万次郎アイツ、『珠綺は東卍のメンバーじゃねぇ』だってさ」



 オレは何も言い返せない。だって、それはオレもマイキーから直接告げられた事だからだ。



「場地、珠綺に何言われても、ぜってぇアイツを暴走族チームに入れようと思うなよ」



 珠綺が東卍に入ると思っていたのは珠綺本人だけじゃねぇ。オレだって、珠綺がチームに加わると信じて疑わなかった人間だ。マイキーやドラケンに及ばないまでも珠綺の喧嘩の腕は全員が認めていたし、オレは珠綺もオレや一虎と同じ特攻隊っていう役割ポジションがピッタリだと考えていた。



「けどよ、珠綺をチームに入れたら喧嘩の時かなり有利になるんじゃねぇ?」

「オレもそう思う。珠綺、バカみたいに強ぇもんな」



 どうやらパーも一虎もオレと同じ考えだったらしい。不思議そうな顔をして口々に珠綺を入れた方がいいとマイキーに意見をしている。



「……オレはマイキーの意見に賛成だけど…珠綺アイツが素直に納得するとは思えねぇ」

「確かにな—……珠綺が不貞腐れる光景が目に浮かぶ」



 オレらとは違って微妙な顔をしていた三ツ谷やドラケンだったけど、流石付き合いが長いだけあって珠綺の性格を良く理解している。そう、オレらはずっと一緒に行動してたんだ。今更アイツだけ除け者にするなんてしたくねぇ。



「ぜってぇダメだ。オマエらが何と言っても、珠綺が不貞腐れても、オレはアイツをチームに入れるつもりはねぇ!!」



 だけど、オレらがどうこう言っても唯我独尊男のマイキーは聞く耳を持たない。マイキーは力強く断言した。



「確かに珠綺は喧嘩が強ぇ。アイツがチームに入れば東京万次郎會ウチのデカい戦力になるって事も分かってる。だけど、オレは珠綺が大好きだ。世界で1番珠綺が好き。だから、アイツには危ない事に足を突っ込んで欲しくねぇし、誰にも珠綺を汚させたくねぇ」



 芹澤珠綺。12月28日生まれで、3人姉弟の真ん中。口は悪ぃし、作るメシは最悪に不味いけど、頭も良くて喧嘩も強ぇオレの自慢のダチ。だけど、マイキーにとっては違っているようだ。どんなに男っぽいナリをしていても、喧嘩が強くても、マイキーにとって珠綺は守るべき存在であって、最愛の女だった。
 オレはバイクに跨ったまま、両腕を摩る珠綺の背中を見つめていた。正直、オレは珠綺を女として見た事が無ぇ。だからマイキーがどんな想いで珠綺のチーム入りを拒絶したのか分からない。ただ、マイキーなりに珠綺の事を想って下した結論だって事だけは理解出来た。



「……私さ、基本的に何でも出来ちまうんだよ」

「何だソレ、嫌味か」



 まぁ聞けって。珠綺は苦笑する。



「だから昔っから何をやってもつまんなかった。勉強も、運動も、芸術も……少しやったら大抵の事が出来るようになる。だけど面白みを感じないから全部中途半端。素人よりは上手くやれるけど、完璧にこなせるワケじゃねぇ。テスト勉強もろくにしねぇから満点なんて殆ど採った事ねぇし、読書感想文とか夏休みの自由研究とかで学校の代表に選ばれても佳作ばっか。仕方ねぇよな。私自身、そこに拘りが無ぇんだから」



 いよいよ珠綺は地面にケツを付けて座り込んだ。膝上に両肘をつき、一瞬盛大に溜息を吐いて言葉を続ける。



「そんな中さ、お前らと一緒に習った空手だけは楽しかったよ。手の届かないくらい強い万次郎に、弱ぇくせにしつこく挑んでくる場地……習い事もお前らとの付き合いも、こんなに長く続くって思ってもいなかった。だけど……やっぱり私は中途半端だ」

「……オマエの言いたい事も分かるけどよ、マイキーは何もオマエを除け者にしたくて言ってるワケじゃ……」

「分かってるよ、ンな事!だからムカつくんだ!!」



 珠綺の口調が強まった。珍しい……と思う。普段から口は悪いし喜怒哀楽の激しいヤツだけど、珠綺は感情任せに声を荒げるタイプじゃねぇから。



「私が万次郎より強ければ良かったのか?それとも、私が女だからダメなのか?余計なお世話だ!!三ツ谷やパーより私の方が強いのに!場地達や一虎と殴り込みに行きたいのに!ドラケンみたいに……万次郎の背中を守りたいのに……ッ!!」



 マイキーが珠綺の東卍入りを嫌がったのは女だから≠カゃねぇ。珠綺がマイキーにとって大切なヤツだったから≠セ。でも、それをオレが言っていいモンか分からず口に出せねぇ。……というより、ンな事は頭の良い珠綺ならとっくに分かってるはずだ。ただ、納得が出来ねぇだけ。
 ズズッ、と鼻を啜る音が高架下の駐車場に響く。続けてオレの身体も寒さでぶるりと震えた。チラっと横に目を向ければ街灯に照らされた自販機が飛び込んできた。ポケットに手を突っ込むと……12円。そうだ、昼におまもり買うのに使っちまったんだった。駄目元でお釣り入れを漁ると運よく100円が出てきたけど、それでも飲み物1本買うのがやっとの金額だ。……仕方ねぇなぁ。



「……オラ」

「……ん?」



 膝を抱える珠綺の隣りにコト、と缶を置いてやる。



「寒ぃんだろ?ソレでも飲めよ」

「……場地が気が利くとか気持ち悪ぃ……」

「ンだとテメェ!嫌なら返せ!!」

「別に嫌だとは言ってねーだろ」



 缶に手を伸ばした珠綺は、パッケージを見てブッと吹き出した。



「何でおしるこなんだよ……ッ!?」

「仕方ねーだろ、それしか買えなかったんだから」



 そもそも、コーヒーが飲めねぇオマエが悪い。110円で買えるあったけぇ飲み物なんて、コーヒーとおしるこくらいだ。ぷるぷると肩を震わせる珠綺に、次第に怒りが込み上げてくる。



「テメェ……いい加減にしろよ」

「……悪ぃ悪ぃ…」



 珠綺は器用に親指の腹でプルタブを押し開けた。



「場地ぃ……」

「……ンだよ?」

「ありがとな」



 そう言った珠綺がどんな顔してんのか、オレは最後まで見る事は無かった。別に珠綺のためじゃねぇ。ダチが落ち込んでるのにろくに慰められねぇ、オレがつくづく情けねぇと感じたからだ。



「やっぱこの時期になると寒ぃな」



 バイクから降りた珠綺は、あの日みたいに両腕を上に伸ばしてコキコキと首を鳴らした。



「ちゃんと自分で防寒着持ってくるとはオマエも成長したな」

場地バカに言われたくねーよ」



 振り向いた珠綺はフンッと鼻を鳴らして首に引っ掛けたメットのベルトを外す。ここ暫く電話かメールだけのやりとりだったから、こうして珠綺と顔を合わせるのは1カ月振りだ。



「……いよいよ、明日だな…」



 ……そうだ。明日は10月31日、東卍と芭流覇羅の抗争の日。



「場地、あれからの半間の動向は……」

「特に目立った動きは無しだ。ただ、珠綺が言ってた丁次ってヤツと何か話してる事が多い。何て話してるかまでは聞けなかったけど、抗争についてならNo,3の一虎に相談するハズだ。内容は多分、明日の稀咲の動きに関して何だろうよ」

「……こっちも、アレからは特に新しい情報は掴めてねぇ。だけど、稀咲と半間が繋がってるとなると、稀咲にとっては今回の抗争はどっちが勝ってもメリットになる。東卍が勝ちそうであれば、丁次ってヤツを使って自分の手柄を増やせばいい。もし東卍が負けるのであれば、その後は東卍を芭流覇羅の傘下として自分が東卍と芭流覇羅のパイプ役を買って出れば良い」



 ホント、頭のキレる奴だな。珠綺は感心したようにそう言った。



「感心するトコじゃねーだろ」

「いや、はっきり言ってここまでは完敗だ。本来であれば、明日の抗争までに稀咲の動きを食い止めたかったんだからな」



 オレだって、出来るならそうしたかった。出来るなら、マイキー達と戦わないうちに全てを終わらせちまいたかった。でも、それはあくまでも願望だ。



「出来なかった事は仕方ねぇ。オレは稀咲をぶっ潰して東卍を守れりゃそれでいい」

「……そうだな」



 その時、急に珠綺が何かに気付いてパーカーのポケットから携帯を取り出した。チカチカと点滅するソレは、連絡が来た事を持ち主に告げている。サブディスプレイを確認するなり、珠綺は顔を顰めてパカッと携帯を開いた。



「悪ぃ、ちょっと出て良いか?」

「オイ、不用意な行動は止めろっつたのはテメェだろーが。もし東卍のヤツで変に勘ぐられでもしたらたまったモンじゃねー」

「安心しろよ、実家からだ」



 そう言って珠綺は通話ボタンを押した。最初こそ渋い顔をしていた珠綺だったが、電話の相手が分かるなり顔をキョトンとさせ、それからすぐに表情を和らげる。話の内容までは聞き取れなかったが、珠綺の口から出たタツヤ≠チて名前には聞き覚えがあった。確か、珠綺の弟の名前がそんなだった気がする。珠綺は実家……というより親父さんとの仲は最悪だったけど、姉貴や腹違いの弟とはそれなりに良い関係を築いているらしい。2、3度しか会った事が無いが、ガキの頃に会った珠綺の姉貴は珠綺とは似ても似つかねーくらい大人しい女だった。暇になったオレは、あの日みたいに街灯に照らされた自販機に足を進める。高速を走ってた時にも思った事だが、いよいよ冬が近づいているらしい。あの日と違ぇのは、今日のポケットの中身はちゃんと2本分の飲み物が買えるだけの金が入ってるって事だった。



「……分かった、明日見てやるよ。ちゃんと準備しておけよな?……うん、うん…分かった」

「終わったか?」

「オウ、弟が明日宿題見て欲しいだとさ」



 買ってきた缶を手渡すと、珠綺は「ありがと」と言ってプルタブに親指の腹を押し当てる。



「明日って……オマエ、明日の抗争に来ねぇつもりか?」

「ん−……最初は行こうと思ってたんだけどさ……圭介君の雄姿も見たかったしな」



 珠綺は目を細め、バカにしたような笑みを浮かべた。



「けど、こう言っちゃ何だけどちょっとホッとしてる自分がいるんだよ。弟との約束なんて断ろうと思えば断れたはずなのに、私はソレをしなかった……。きっと、怖いんだと思う。万次郎達と場地や一虎がやり合うのを見るのがさ……」



 ふぅ、と息を吐いて、珠綺は缶の縁に口を付けた。



「……ブフゥッ!!…ケホッ……何だ、コレ…」

「ブラックコーヒー」

「ンなモン私に飲ませるんじゃねぇ!!」



 いつもしてやられるのはオレだからな。ケホケホとむせて涙目になりながらコーヒーを吹き出す珠綺の姿が可笑しくて仕方ねぇ。ニヤニヤと笑ってると、ようやく顔を上げた珠綺がギロリとオレを睨みつけた。



「あー……苦ぇ…まじぃ……口ン中が泥みたいな味する…」

「オマエ、ホントに子供舌だよな」

「うるせぇ。コーヒーなんて飲めなくたって何も困らねぇんだよ。……お前は何買ったんだ?」

「ココア」

「私もそっちが良い!交換しろッ!」



 交換しろも何も、最初からココアコッチが珠綺用のつもりだったんだけどなー……ま、面白ぇからこのまま黙っておくとしよう。



「珠綺ー…」

「あ?」



 よっぽどまずかったのか、珠綺はコーヒーをオレに押し付けるなり急いでココアのプルタブを開けてぐびっと口の中に流し込んだ。相変わらずオレを睨んでいる視線に無視を決め込んで、オレはずっと珠綺に聞きたかった事を口にした。



「オマエさ、今でも東卍に入りてぇって思ってるわけ?」



 途端に珠綺の動きがピタリと止まった。ヤベェ、マズい事聞いちまったか?だけど、珠綺は暫く瞬きをして、それから「んー……」と上を見ながら鼻を鳴らした。



「……入りたくねぇ、って言ったらウソになるな。後にも先にも、私が入りたいって思うチームは東卍だけだ。だけど、私が東卍に入らねぇ事が万次郎の為になるっていうなら、それでも良いって今は思ってる」



 万次郎には言うなよ?そう言って笑った珠綺の表情に驚いた。アレ?珠綺ってこんな綺麗に笑うヤツだったっけ?オレの知ってる珠綺は、パーや一虎と口を開けて笑ったり、人を子馬鹿にしたようにほくそ笑むヤツだったはず。珠綺の顔が良いのは知ってた事だけど、今日ほどコイツが美人だと思った事は無かった。



「……そりゃ、一虎や千冬も惨敗するはずだわな」

「ん?何か言ったか?」

「別に。アホ面してんなぁ、って思っただけだよ」

「あ゛?喧嘩なら買うぞテメェ……」




















 ……今思えば後悔でしかねぇ。あの時のくだらねぇ喧嘩、買っといてもらうべきだったなァ……。芭流覇羅として東卍……基、稀咲の首を獲ろうと挑んだオレは、珠綺が言った通り丁次が稀咲に潰されるタイミングを見計らって動き始めた。なのに、あと少しというところでオレの身体は動く事を止めてしまった。それは決して一虎のせいじゃねぇ……一虎の気持ちを理解しきれなかったオレの怠慢だ。千冬に身体を起こされながら、オレは駆け寄ってきたタケミチに目を向ける。そういえば、昨日千冬と2人でオレの事呼び出した時も、タケミチコイツは何かを知ってる風だったな。千冬に何か吹き込まれて知っただけなのかもしれねぇが、ぐしゃぐしゃになった千冬の顔がよく見えない程に目が霞んでいたオレには、何でかタケミチの姿に真一郎君の面影を重ねていた。



「タケミチ、オマエはどこか真一郎君に似てる」



 背丈や顔がってワケじゃねぇ。任命式で稀咲をぶん殴っちまう後先考えねぇトコとか、情けねぇその背中に全てを任せちまいたくなるトコとか……。あー……あんなに痛かった腹の感覚も無くなってきた。廃車場ならではの細かい土埃が舞う中、さっきまであんなに煩かった周りが嘘みてぇに静かだ。ついに耳まで可笑しくなっちまったか?



「マイキーを…東卍を…オマエに、託す!!」



 ……ホントなら、オレ1人でどうにかしたかったのになァ……。マイキー、こんな事で償えるだなんて思ってねぇ。オレらが壊しちまったモンの代償はもっとデケェから……。だけど、珠綺の分までオレが東卍を……マイキーを守ってやりたかった。それが例え、自己満足だったとしてもだ。



「ありがとな、千冬……」



 最期まで、オレを信じてくれてありがとう。



「ごめんな、珠綺……」



 きっと、珠綺が今のオレの姿を見たら「バカ野郎!!」って怒鳴り散らしてくるんだろうな。滅多に泣かねぇヤツだったけど……こんな時くらいは泣いてくれるかもな。いつもはあんなにウザイと思っていたアイツの小言が聞きてぇなんて……いよいよ末期に違ぇねぇ。珠綺、巻き込んじまって悪かった。守り切れなくて悪かった。せめて、オマエだけはオレの分までマイキーの隣りにいてやってくれ。

 頼んだぞ、オレの大切な相棒。