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「ゴホッ、ゴホッ」
「大丈夫ですか?」
「はい、すみません…これだけですか?彼から頂いたのは。」
「あとはこの置き時計ですね。」
「置き時計?」
浜沢さんがベッドボードの上から一つの電子式置き時計を手に取った。
「Wi-Fiに繋ぐと正確な時間を取得するって教えてもらったので、繋いでるんです。」
「Wi-Fi、ですか。」
ぬいぐるみの目の当たりを観察したり、強めに握ったりしてみた。
しかし、それはただのぬいぐるみのようだ。
「その置き時計ですね。」
「え?」
「盗聴器、かと思いましたけど…おそらく隠しカメラでしょう。」
「そんな…」
浜沢さんにはショックだろう。
日常を撮影されていたのだから。
置き時計を受け取り、カメラ部分を見つける。
浜沢さんや部屋が映らないようにカメラ部分を下に向けて床に置いた。
「呼びましょう。彼を。」
「…どうやって?」
「連絡するんです。彼に、此処に来るように伝えましょう。」
「……」
浜沢さんが震えている。
「大丈夫。僕が必ず守りますから。」
「安室さん…」
浜沢さんの手を握る。
震える手は冷たくなっていた。
「連絡します。その、よろしくお願いします。」
「落ち着いて話してください。頑張って。」
「はい。」
浜沢さんは空いている手で携帯電話を操作する。
何十件も不在着信が残る中から一つ選択して、相手に電話をかけた。
「…もしもし。浜沢です。はい、そうです。」
相手が電話に出たらしい。
「部屋に来てくれますか?そう、今からです。…わかりました。待ってます。」
簡潔に内容を話すと、電話を切る。
浜沢さんが深く溜め息を吐いた。
「今、近所のマンガ喫茶に居るみたいです。シャワー浴びてから来るって言ってました。」
「そうですか。」
「何でシャワーなんですかね?」
「恐らく暫く入浴してないのでしょう。浜沢さんの前に汚い姿で現れたくないのでは?」
入浴や寝る間も惜しんで浜沢さんを見張っていたのか。
素直に来る事になった所を考えると、彼も覚悟が出来てるのかもしれない。
「彼の為にも、終わらせてあげましょうね。」
「はい。そうですね。」
浜沢さんは少し落ち着いたらしい。
手の震えは止まっていた。
「…と、すみません。ずっと手に触れてしまって。」
「いえ。安室さんの手、温かくて落ち着きました。」
浜沢さんがひと息吐く。
「無視していれば、いずれ飽きて帰るかと思ってたんです。でも、向き合うべきだったんですね。」
「向き合うのは1人の場合は避けてください。危険ですから。」
「はい。」
「それから、彼が来たら僕は浜沢さんの恋人として振る舞います。気を悪くしないで下さいね。」
「悪くなんて…お願いします。」
浜沢さんの顔に恐怖心は感じられなかった。
(僕が居ることで、安心してるのだろうか)
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