軽く飲み直して、終わる頃には愛未さんは落ち着いていた。
僕に寝巻きを用意してくれたので、折角なので着替えた。
それは男物だ。
恐らく元カレとかのだろう。



「安室さんも、女性とトラブルになった事はあるんですか?」


同じベッドで横になる。
僕の腕の中で愛未さんは僕に抱きつきながら聞いてきた。


「どうしてそう思うんですか?」

「なんとなく…私に、共感してくれたから。」

「そうですね。当たりですよ。僕が友人と思った時には、相手はもう友人って思ってくれないんですよね。」

「辛くないですか?」

「辛かったですよ。友達を失いますからね。」

「やっぱり、戻れなかったですか?」

「相手がまず無理でしょう。戻れた事は無いですね。」


愛未さんの体温が上がっていく。
眠いのだろう。
頭を撫でると、僕の体に回された愛未さんの腕の力が抜ける。


「腕…重くないですか?」

「大丈夫ですよ。」

「あの、確認するの忘れてたんですけど…安室さんってお付き合いしてる方は居ないんですか?」

「居たらここまでしませんよ。」

「よかった…そうですよね。」


愛未さんの語尾が弱々しくなっていく。



「誰かと…寝るの、久しぶりです…」

「おやすみなさい。ゆっくり寝てください。」

「はい…おやすみ…なさ…」


緩やかな呼吸音が聞こえる。
愛未さんが眠ったらしい。

さて、この後どうするか。
彼が戻って来ないとも言い切れないのは確かだ。
だが、朝まで居座るつもりはない。

愛未さんが思わぬ好意を向けられて困るように、僕だって望まぬ好意は困る。
今回の事で愛未さんの気持ちが僕に対して恋愛に切り替わるかもしれない。

僕達は確かに似ていて、悩みを共有できる。
だが、別に僕は悩みを共有できるからと言って愛未さんと恋愛をするつもりはない。
彼女には可哀想だが、起きる前に僕は出て行こう。


「……」


僕も誰かと寝るのは久しぶりだ。
しかも、異性と身体の関係無しで寝るなんて。


「ん…」


愛未さんが少し動くが、離れることはなかった。
呼吸も、体も温かい。


「……」


寝てはいけない。
何のために今ここに居るんだ。
仮にも、守るためだろう。
愛未さんはきっと、久しぶりの安眠だ。
起きることはない。
僕が、しっかりしなくては。

目蓋が重い。
愛未さんの体温が心地いい。

少し目を瞑るだけ。
僕は毎朝、5時に起きている。
自然と目が覚めるし、熟睡する事はない。
だから大丈夫だ。




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