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自然と目が覚めた。
今は一体何時だろう。
そろそろ起きて、出て行く支度をしなくてはいけない。
「う…」
ここ数年感じた事ないくらい頭がすっきりしている。
だがまだ頭がうまく働かない。
「愛未さん…?」
隣で寝ていたはずの彼女が居ない。
トイレだろうか。
本来なら先に起きて出て行くつもりが、随分熟睡してしまったらしい。
普段なら誰かと寝る事で熟睡なんて絶対出来ない。
それに僕は眠りが深い方では無い。
それなのに熟睡してしまった。
愛未さんを抱きしめて眠るのは、随分心地よかった。
愛未さんの程良い重みとサイズ感が、僕の寝方にぴったりと合うらしい。
「気持ち良かった…」
まだ働かない頭。
つい、声が出てしまった。
一晩身体の関係を持ったわけでもないのに。
凄く、気持ちよく眠れてしまったんだ。
「そんな…」
カーテンの向こう側が明るい。
起きた時に自然光で部屋が明るいなんて、珍しい。
時間を早く確認しなくては。
ベッドの上に置いた僕の腕時計を確認する。
「く、9時20分!?」
何かの間違いなのか。
しかし、時間と外の明るさは一致している。
愛未さんは何処に居るんだ。
「愛未さん?」
風呂場で物音はしない。
それどころか、人が居る気配も無い。
キッチンテーブルの上には1枚の紙と、インスタント食品と、鍵と、僕の服が畳まれて置いてあった。
『安室さんへ
昨日は本当にありがとうございました。
今日は仕事の都合で遠出するので、先に家を出ます。
何度か声を掛けたのですが、気持ちよさそうに眠っていたので挨拶もせずに出てしまって申し訳ありません。
たいしたものは有りませんが、インスタント食品や冷凍庫にある食品は好きに食べてください。
お洋服は洗濯と乾燥は済んでます。
鍵はこの部屋のスペアキーです。
部屋を出る際に、鍵をかけたらドアポストに入れて置いてください。
浜沢 愛未 より』
目眩がした。
僕がしようとした事を、彼女にされてしまった。
本当に僕は全く起きなかったのか?
愛未さんの生活音を聞いても起きなかったのか?
「連絡先くらい書くだろ…」
自分で発してから後悔した。
別にこれから繋がりが欲しいわけじゃない。
ただ、昨日はあんなに通じ合ったのにあまりにもあっさりした終わり方だからついて行けないだけだ。
僕はインスタント食品には手を出さず、身支度を終えてから愛未さんの部屋を出た。
合鍵は当然、ドアポストに入れた。
(あのストーカーの言葉が頭から離れなくなった。)
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